雪の日舎
わくわく発見記

「関わる工程がたくさんあるから、私にもできることがある」就労継続支援B型 つなん福祉会すみれ工房

2019.05.31

現在スノーデイズファームで販売中の「越後杉箸」。

 

ECショップに掲載するにあたって、販売者であり、プロデューサーのR4Yours代表・桑原亮さんに商品のことやつくりはじめるきっかけについてお話を聞かせていただきました。

 

桑原さん、実は本業は寿司職人。

津南町にある「松海寿司」を経営しています。

 

そんな桑原さんが繋ぎたかった、ちいさな町の魅力を詰め込んだのが、「越後杉箸」です。

 

 

R4Yours とは

「民間の活力・実益こそが真の地方活性化に繋がる」と考え、民間の民間による民間の為の仕事作り、そのプロダクトとセラーの企画と具現化を目指す会社。
様々なジャンルの人間を結び付け、その能力を最大限に活かし、森林山地の環境保全、地域所得向上、地域にもっと貢献したいと考えてる方々(継続支援型施設の利用者・主婦・高齢者)との協業、特産品開発、次世代への地場産業作り、この5点を結びつけた「地域循環型ビジネス」を実現・推進することで「真の地方活性化とは何か」を考えることを目的としている。

R4Yours オフィシャルサイトより抜粋)

 

 

 

「僕には何もできません。関わっていただいている皆さんが、本当に素晴らしいんです。僕の力ではなく、おかげさまなんです」

 

お話の中で何度も何度も、そう語る桑原さん。

 

そんなふうに絶賛する皆さんが、どんな方なのか、どのように仕事をされているのか、とても気になってきます。

 

同時に、桑原さんから溢れ出るこの「わくわく感」の答えが、みなさんにお会いすることで見つかるのではないかという期待とともに、それぞれお話を聞かせていただくことになりました。

 

「なぜ寿司職人が、お箸で起業?」越後杉箸から始まる地域循環型ビジネス〜R4Yours 桑原亮さん/新潟県津南町

 

「ここでも夢は見れる」勇気をくれる越後杉箸〜デザイナー・Biko 滝沢萌子さん

 

「こんな働き方もアリなんだ」好きを仕事に〜ハンドメイド作家 花羽呼屋 石原綾乃さん

 

「デザインはおまかせします」信頼されているからこそ、チャレンジしたい〜デザイナー 藤木勉さん

 

最後にお話を聞きに伺ったのは、就労継続支援B型(*1)の社会福祉法人つなん福祉会すみれ工房さんです。

 

 

「就労継続支援B型」と聞いて、どんな事業所なのかはっきりとイメージができる人はどれくらいいるでしょうか。

 

私自身「すみれ工房」という名前は、地域で販売しているお菓子や雑貨に書いてある販売者情報の欄で見たことがある程度でした。

 

 

「障害のある方が、作業をする通所施設」という程度の理解しかなく、実際に事業所の中に足を運んだこともなかったので、一体どんな場所なのだろうと、少しドキドキしながら玄関のベルを押しました。

 

玄関を入ると、事務所の前に並べられたカラフルなハンドメイド雑貨に目を奪われました。

 

▲手作りの「てっこ」(腕カバー)

 

 

これらはすみれ工房の自主製作品。

 

 

女性職員の方が中心となって企画、アイロンがけやミシンでの縫製など、利用者の能力に合わせて製作に関わっており、可愛らしいパッケージとともに町内の女性にも人気の商品たちです。(私も手ぬぐい帽子を購入!愛用中です)

 

 

そのほかにも、さまざまな商品を企画したり、企業から作業を受託したりしています。

 

 

そんなすみれ工房では、越後杉箸の強度チェック、研磨、パッケージを担当。

 

ですが、この越後杉箸の作業は、他の受託作業とは少し内容が異なるようなのです。

 

(*1)障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つ。障害や難病のある方のうち、年齢や体力などの理由から、企業等で雇用契約を結んで働くことが困難な方が、軽作業などの就労訓練を行うことができる。比較的簡単な作業を、短時間から行うことが可能。

年齢制限はなく、障害や体調に合わせて自分のペースで働くことができ、就労に関する能力の向上が期待できる。事業所と雇用契約を結ばないため、賃金ではなく、生産物に対する成果報酬の「工賃」が支払われる。

「ぜひ、すみれ工房さんに」に応えていくのがここ

 

「せっかく『すみれ工房さんでやってもらえないか』と言われてるのだから、それに答えていくのがここの役割。越後杉箸を作る工程を地域で完結したいという思いに参加させてもらえて、ありがたいです。また、利用者の工賃にも反映してくるので、自分たちの手の加わったものが、社会にも認めてもらえるというのも嬉しいことですね」

そう話すのはすみれ工房の施設長・福原吉重(ふくはらよししげ)さん。

 

はじめに桑原さんから、越後杉箸のメンテナンスをすみれ工房でやってもらえないかという話を聞いたときに、その思いに共感し「ぜひ関わらせてほしい」とお返事をしたと言います。

 

 

 

いろんな工程があるから、個人が生きる

 

越後杉箸のメンテナンスの工程は多様。

強度チェックから、研磨、パッケージングまで、それもとても繊細な作業です。

そんな複雑な工程を任せられることは大変なことなのでは?と思うのですが、福原さんは

「いろいろな作業をもらえるとありがたいんですよ」

と教えてくれました。

 

「すみれ工房では、利用者のできることや得意なことを汲み取って、その人自身を生かせる作業を振り分けてやってもらいます。だからいろいろな作業があれば、あるだけ助かります。ここで自分のできること、得意なことを見つけたり増やしていくことで、一般企業でも生かせる能力をつけてもらうことが、すみれ工房の役割でもあるんです」

 

10人いれば、その得意なことも10通り。

どんなことが得意なのか、または苦手なのか。様々な作業をやってみることで見つけることができます。

 

実際、すみれ工房に頼まれる仕事の中では、「お菓子の袋づめ」など一つの工程だけを任される仕事も多いとのこと。越後杉箸のように、様々な作業が組み込まれた、商品ができるまでの一通りの工程を任されることは稀だということです。

 

一人ひとりの能力を発見し、コーディネートする

 

「越後杉箸に関しては最初は俺一人が関わってたけど、今はほかの職員が関わってしっかり任せられるようになったので、うまく回っているかな」

 

当初は、職員自身も初めての作業で手探り状態だったといいます。

 

「利用者に仕事を渡すためには、職員が段取りを組んでいかなきゃいけないんですよね。そのためには職員自身も工程をしっかり理解していなければいけないんです。その上で、職員が常に利用者を観察してアイデアを出していかなければならない、大変だったと思います。

利用者の中には、同じ作業を一年かけてやっても、できない人はできないんです。そこが障害なんですよね。だから、その人ができる作業をするし、できるようにフォローするのも職員の役割。

 

 

例えばフリーハンドではできないけれど、定規を作ればその通りにできるという場合。それは『できない』のではなくて、その方に合うものを使えばできるということなんです。職員には、常に観察してアイデアを出し合ってくださいって言っています。

こういうの欲しいって言えば、俺が作るからって」

 

実際に作業風景を見せていただくと、作業台の上にはさまざまな手作りの道具やメモがありました。それはどれも職員が考えたアイデア。

 

▲箸に帯を糊付けする作業。貼る場所がずれないように、手作りの型が用意されている。

 

▲箸を磨く方向を大きくプリントし、いつでも確認できるようにしている。

 

利用者の皆さんはコツコツと作業を進めていましたが、この状態を作るまでには職員の皆さんの並々ならぬ観察力や受容力、そして柔軟なコーディネート力が発揮されたのだろうなと想像できました。

 

一人ひとりの能力を発見し、生かす。

すみれ工房の職員のみなさんの姿勢は、桑原さんが言う「さまざまな立場の人との協業」の根本だなと感じます。

 

 

「俺に任せとけ」

 

実際に作業しているところを見せてもらいました。

ちょうど製材された箸の強度チェックが終わり、磨く作業をしていた二人の男性。

ここはお二人の得意なパートだといいます。

慣れた手つきで、二通りのヤスリで箸を磨いていきます。

 

 

「はじめはこっちのヤスリ。仕上げはこっち。こうやってすべっこくしていくんだ」

山岸さんは、実は元大工さん。木材のことには詳しいので、手探りだった初めの頃から、どうしたらいいか職員と一緒にアイデアを出してくれたそうです。

 

 

「あ、これだめだなぁ」

そう言って、磨いていた箸を職員に渡すのは関沢さん。

 

 

強度チェックは通っていますが、磨いている工程の中で強度が弱いことを発見。その品質管理の能力は、すっかり職人です。

 

 

「朝礼でも、箸が売れて売れてしょうがねぇんだって話をするんですよ。今度皆さんが作った箸がフランスに行くんですよって言うと、『きっちりいいものを仕上げなきゃ』『俺に任せとけ』『このパートは俺だよね』って張り切っています。

利用者のやりがいとか自信には繋がっていると思いますよ。それが工賃にも反映してくるし。みなさんに頑張ってもらうしかないですよっていうと、俺がやらなきゃって」

 

 

障害者は知ってもらわなければ理解されない

 

また今回越後杉箸に関わって、より多くの人が「すみれ工房」について知ってくれることが大切だとも話してくれました。

実際、すみれ工房では展示販売もしていますし、誰が入ってきてもいいんですよとオープンにしています。しかし、実際に入ってくる方はまだまだ少なく、何をしている施設なのか知らない人が多いのが現状です。

 

「こんなことしているんだ、障害を持っている人でもこんなことができるんだ、じゃあ頼んでみようとか、そういうふうに関わってくれる方が増えるといいなと。障害者は見てもらわないと、なかなか理解が進まないですね。

 

実際に若い障害者も多いと聞いていますが、どれくらいの人が家に引きこもっているのかはわからないんです。地域の人にここがどういう事業所なのかということをわかってもらうことで、引きこもっている人がちょっとでも家から出てくるきっかけになればいいなと思います。だからさまざまなイベントにも出店してるんです。

それで自主製品でハンドメイド雑貨などにも力を入れていて。最近はその効果か、県外からもホームページやSNSを見て、いろんなことやってますねって見学に来てくれたり、ちょっとずつ広がっていってる感じはします。それで注文も来ますし。材料費以外は利用者の工賃になるので、売れれば作れる。その積み重ねなんですよね」

 

 

「ここは、利用者自身が、自分が障害者なんだということを自覚して来てもらわないといけないんです。さらに、入ったからってみんながみんな就労に結びつくわけじゃない、実際はその方が少ないんです。そういう部分も本当は知ってもらわなければいけないんです」

 

自分自身について知り、障害についても知る。その上でできることを最大限生かして働くということ。

それらが可能になるためには、地域に暮らす一人ひとりが障害者について知ることも不可欠です。

 

越後杉箸を通して、より多くの人に自分たちの障害やできることについて知ってもらうことが、利用者自身の自信ややりがいにつながっていく。

実際に作業風景を見せていただいて強く感じたことでした。

 

誰にでもある。自分を生かし、社会に貢献するよろこび

障害を持っていても、自分のペースで働いたり、社会に貢献できることはある。

それは、石原さんが「子育てしながらでも、パートタイムでも、自分の得意なことを生かして社会に貢献できる」という自信や、「会社勤めでも新しい視点で個々の能力をより生かす働き方ができる」という藤木さんの言っていた可能性と、なんら変わらないことなんだなと感じました。

 

越後杉箸に関わるみなさんは、それぞれ全く違うジャンルであり、働き方であったのですが、お話を聞く中で「自分の得意や能力を生かして、社会に貢献することが喜びになる」という共通の価値観があることがわかりました。

 

だからこそ、それぞれが自信ややりがいを持ち、ワクワクが生まれているのだなと思います。

 

代表である桑原さんは、きっとみなさんのこのような姿を見たかったのだろうと思うとともに、桑原さん自身が常にワクワクすることを考えているからこそ、関わるみなさんにも波紋が広がっていくのではないでしょうか。

 

それぞれにお話を伺ってきたこの連載シリーズですが、最後にみなさんからのお話を桑原さんにフィードバックしたいと思います。

 

すみれ工房の皆さん、ありがとうございました。

 

 

お話を聞いた人

社会福祉法人つなん福祉会 すみれ工房(就労継続支援B型)

所在地:新潟県中魚沼郡津南町大字下船渡丁5333

連絡先:025-765-4703

 

施設長 福原吉重さん

 

 

 

■すみれ工房の皆さんが、メンテナンスに携わっている越後杉箸はこちら

諸岡 江美子

諸岡 江美子

スノーデイズファーム(株)webディレクター/保育アドバイザー。1987年、千葉県船橋市生まれ。東京都内の認可保育園にて5年間勤務、その後新潟県妙高市にある国際自然環境アウトドア専門学校、自然保育専攻に社会人入学。津南町地域おこし協力隊を経て、現在はClassic Labとして独立。雪国の「あるもの、生かす」という生き方を研究している。編集者、エッセイスト。