雪の日舎
今日の佐藤の、かんがえごと

【新刊「はじめに」を公開中】書籍「きぼうしゅうらく 移住女子の里山ぐらし」が発刊されました

2019.08.31

「きぼうしゅうらく 移住女子の里山ぐらし」が発刊されました!

2014年から5年間、新潟日報にて書かせていただいたコラムが1冊の本となりました。
「さまざまな変化のなか、自分らしいあしあとをつけていこう。」
そのための北極星となる言葉を、たくさん詰め込みました。

「きぼうしゅうらく」というのは連載当初からのタイトルですが、「なんでもうまくいっている成功した集落」という意味ではなく、「限界をきぼうに変える力」「小さな日々からきぼうを見出し、きぼうを語る力」を持つ人や集合体のこと、と思いを込めました。

 

とてつもないスピードで変化してゆく世の中や地域、
ライフステージごとに変化する人生、
そして、ときに自ら起こす変化、
そのとき、世界に1人のかけがえのない自分を守る、自分だけの北極星を見失いたくない、その星のかけらはどこに落ちているんだろうと、大なり小なりの変化に触れてきた人たちに向けて書きました。
(そういう意味では、連載当初は大切なものを見落とさないぞと、変化の渦中にいた自分に向けて書いていたように思います)

くらし・しごと(経済性)・こそだてが混ざり合った部分から、その地域にフィットした仕事や文化、新たな価値を生み出していた「経済と暮らしを共存させる姿」
多様性が共存する自然から多くを学び続けることをやめず、AIに取って代わることのできない「人間らしい感性をはぐくむ姿」
毎年違う気候や作物の成長、政治情勢など変化し続けるものの中で、「来年こそは」と失敗と挑戦を繰り返し「なにかを生み出し続けたきた姿」、などなど、そんな農業の先生たちの背中は私にとって、世界への向き合い方を教えてくれる哲学者でした。

 

そんな、日本特有の豊かな自然環境と、小さく豊かな農業から生まれる人間らしい感性や美意識・価値観は、持続可能な開発目標(SDGs)の実現を目指す世界と、先の見えないこの時代において、より私たちに「私らしい心地よい明日を切り拓くための、大切なもの」を投げかけるのでは、

 

直感的に感じた、そんな「大切なもの」を繋げたいがため、
そして誰の価値観でもなく、自分が正直に心地いいと感じる私らしさを守るため、農業を続けていたように思います。

 

そんなこんなはさておき、いろいろ感じ悩み実践・模索しながら、暮らしのなかでいただいてきた言葉や風景、変化に揺れ動く私の喜怒哀楽な感情たちを、コーヒーを淹れるように文字という形に抽出したこの本。

やわらかい風、揺れる木陰のなかで小さなチョコレートを味わうように、心地いい里山じかんをお届けできれば、とおこがましくも思っています。
「本」を買う、というより、そんな「時間」を買う感覚で、手にとっていただけると嬉しいです。

 

 

最後に、この9年間、地域でさまざまな言葉をかけてくださった方々のおかげで、本という形になったと思います。本当にありがとうございました。

想いの一端を届けるため、書籍「きぼうしゅうらく」の「はじめに」部分をここで公開します。
ぜひご覧くださいね。

はじめに~自分らしい、しあわせのあしあとをつける~

私が6軒13人の、いわゆる限界集落と呼ばれる池谷集落に出会ったのは2009年、大学3年生の頃、国際NGO「JEN」が行う中越地震の復興ボランティアがきっかけでした。その後、大学を卒業する2011年2月に移住し就農しました。当時はまだ移住や就農の支援制度は今ほど整っておらず、裸一貫、地域に支えられての単身移住でした。

 

移住前後は、全方面から「なぜ」を投げかけられました。なぜ農業なのか、なぜ過疎地なのか、なぜ豪雪地なのか、なぜ今なのか…。今思えば、こうありたいという大人たちの姿が、たまたまそこにあったからなのかもしれません。

 

私は自分のことが大嫌いでした。なぜなら、他人と比べ、比べられる生き方をしてきたからです。太りやすい私は過激なダイエットとストレスで過食になったり、ガリ勉して進学校に入ったにもかかわらず、急に頑張れなくなり学校に行かなくなったり。知らず知らず私は、自分に対して「こうあるべき」を押し付け、生きづらさを感じていました。自分がなにものなのか分からなくなった私は、大学進学後にやりたいことや心動くことを全て行うことにしました。

 

そんなとき、アフリカでの紛争解決の勉強や学生団体で難民支援活動をしていたご縁から、JENを通じて池谷集落に出会いました。池谷集落は中越地震以降、「限界集落から脱したい」「過疎地から脱して、日本中の過疎地を元気づけたい」という諦めかけていた思いを言葉にし、たくさんのサポーターを増やしていた時期でした。思いを言葉にすることで、限界をきぼうに変えてゆく姿は衝撃的でした。

 

そんな夢を語る池谷集落の農業者の方々は、私が移住する前から里山農業が生む人生観や美意識を教えてくれました。農業は本質のかたまり。私のメモには、ありのままの私を受けとめ、指導してくださった農作業のあれこれだけでなく、心動いた言葉たちも走り書きされています。泥のはねたメモ帳は、私にとっての北極星となりました。

 

作物や手仕事、文化や風景などを消費する側ではなく、生み出す側となることで、「足元からくらしを豊かにしてゆく姿」。変化が激しい時代に、人間らしい感性を持ちながら、失敗と挑戦を繰り返すことで、「未来を豊かにしてゆく姿」。そして「きぼうを語り続ける姿」。それらは、当時国際紛争や社会問題に向き合いながら「どう生きたら自分も世の中も、心地よくなるんだろう」と考え続けていた私にとって、こんな大人になりたい、そのために情熱を注いでみたいと思わせる姿でした。かけがえのない自分の心が動き、感じたときめきを、信じたいと思いました。

 

生産性や経済性、同質性が重視されすぎるくらし、学校、仕事、生き方に感じた生きづらさ、その一方でとてつもないスピードで変化してゆく今、「わたし」を守り、明かりを灯す北極星を見失いたくなかったのです。私が私らしくあるための、挑戦でした。

 

「きぼうしゅうらく」というのは「なんでもうまくいっている成功した集落」という意味ではなく、「限界をきぼうに変える力」「小さな日々からきぼうを見出し、きぼうを語る力」を持つ人や集合体のこと、と思いを込めました。

 

5年間、新潟日報で書かせていただいた「きぼうしゅうらく」は、自分らしいしあわせの形と、地域らしさは何かに向き合い続け、模索してきた泥のはねた不恰好なあしあとであり、里山農業から心動く世界を届けられるように、と書き続けた願いです。
書籍化にあたり、それぞれのエッセーにくらしの北極星となるタイトルをつけ直しました。

 

先日、2人目の娘が産まれ、そして入れ替わるように、農業の先生のうち1人がこの世をさりました。同じ1年は二度とない。悲しいこと、嬉しいこと、自分の力ではどうにもならない悔しいこと、さまざまな変化をしてゆくなかで、自分らしい、しあわせのあしあとをつけていこう。

 

山から吹く風に言葉を乗せて、どうか皆さまにも届きますように。

 

きぼうしゅうらくを、形にしてくださった方々

最後に、書籍化にあたり本のデザインをしてくださったのは、私たちの干し芋のパッケージもデザインしてくださっている株式会社アドハウスパブリックの白井豊子さんです。

私の氾濫暴走した言葉たちを丁寧に整理し、デザインで形にしてくださる、なくてはならないパートナーです(涙)
いま商品開発中のこどもおやつのパッケージも一緒に考えているところです。

 

そして、担当してくださった新潟日報事業者の佐藤さん、松井さん。

なんと佐藤さんは、大学が同じ先輩!
松井さんは、入社して記念すべき1冊目の編集だったとのこと。
本作りを通じて、素敵な出会いをいただきました。本当にありがとうございました!

 

 

ぜひ一人でも多くの方々に届きますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします!

佐藤 可奈子

佐藤 可奈子

株式会社雪の日舎 代表。1987年、香川県高松市生まれ。立教大学法学部政治学科卒。大学卒業後、新潟県十日町市に移住、就農。「里山農業からこころ動く世界を」がテーマ。著書「きぼうしゅうらく〜 移住女子と里山ぐらし」