雪の日舎
どうつくる?しあわせなはぐくみ

第5話 「自然豊かな十日町で子どももおとなも生きる喜びを感じ合いたい 」~越後妻有森のようちえんノラソラ代表・馬場久美子さん

2018.03.09

第3話第4話では、森のようちえんの先駆者的存在である「森のようちえんてくてく」にスポットを当ててきました。

第5話では、昨年スタートした「森のようちえんノラソラ」にスポットを当てていきます。

 

 

新潟県十日町市で始まったばかりの「越後妻有 森のようちえんノラソラ」

 

お母さんたちが「私たちらしい保育のかたち」とはどんなものなのか、模索しながらも着実に歩みを進めていく、そんな力強さも感じる活動です。代表の馬場久美子さんに始めたきっかけから、まさに今どのように保育をしているのか、リアルなお話を聞きました。

 

自分の「つくりたい」から、仲間と「つくる」へ

 

—森のようちえんを始めたきっかけはなんでしたか?

いま3歳になる息子が1歳で歩き始めたときに「歩きたい」という欲求がすごかったんです。とにかく歩きたい!と暇さえあれば疲れを知らずに歩きたい!という様子を見て、公園など自然の多い中に連れていくことが増えて。

そのときに「森のようちえん」というものを知り、調べていくうちにあこがれを持つようになりました。

 

そんななか、仕事復帰の話が出たので、市内で保育所を探すことになりました。外あそびが存分にできる園を探したのですが、園によって特色が異なりお遊戯会などの行事に向けて活動するような園が多いことを知りました。

 

私は結婚を機に埼玉から十日町に移り住み、子育てが自然豊かな場所でできることに魅力を感じていたし、期待をしていました。家族と過ごす休日だけではなく、保育園に預けている間にも自然と触れ合う生活をさせたいという思いが 「森のようちえん」を立ち上げるきっかけとなりました。

 

—思いを、どうのように形にしていきましたか?

「森のようちえん」ということばを見聞きすることが増えたけれど、世の中のお母さんたちはいったいどう思っているんだろう?と思いFacebookで「森のようちえんのはなしをしよう」とイベントを立ち上げ参加者を募りました。

イベントに来てくださった方と話す中で、森のようちえんに対する思いが大きく4つに分かれることがわかりました。

 

  1. 考え方には賛成
  2. 自分がしたい
  3. 賛成だけど自分がするまでもない
  4. 別にどちらでもいい

 

そこで次は賛成、もしくは自分がやりたいという人で県内の森のようちえんを見学に行くことなったときに、たまたま集まったのが、ママたちや元保育士だったので他園の見学や話し合いを重ねることができました。

 

「十日町の自然の中で思う存分あそばせてあげたい。おとなの基準で制止や指示をだすようなことをしない子育てでありたい」という共通の思いを抱くようになり、まずはイベント型で始めてみようと「森のようちえんノラソラ」が動き始めました。

 

—全くのゼロからのスタートだったのですね。

息子は、保育所に入園する前の1年間、ブナ林で開催されているイベント型の森のようちえんに参加していました。はじめは私に抱っこをせがんだり虫が怖くて触れなかった子が、1年を通して自分でいろいろなものを見つけてきたり、登れなかった坂を登れるようになったり大きく成長したんです。その姿を見て、人に与えられるのではなく、自分の力で獲得する「生きる力」は自然の中ではぐくまれるのだと感じていました。

 

テーブルワークで、丁寧に思いをつむいでゆく

—スタートにあたり、悩んだり、立ち止まることはありませんでしたか?

やっぱり始める前は悩みました。本やネットで調べても、基本的に森のようちえんは無認可だし採算がとれないことも知りました。それでも自問自答したときに、せっかく子どもはここで生まれ育つわけだから、十日町の自然の中ではぐくまれるものを大切にしたいと思い、できることからやっていこうと思いました。

 

小さな会合や他園の見学を経て、ファシリテーターを呼びスタッフでテーブルワークも行いました。

テーブルワークでは

 

「そこでなにが行われていたら楽しいか?」

「十日町のどんな素材を使ってどこでどんな森のようちえんにしたいか?」

「どのような核・軸となる思いや願いをもって保育をしたいか?」

 

を話し合いました。

 

 

—そこで名称も決まったのですね。「森のようちえんノラソラ」という名称にはどのような思いが込められているのでしょうか?

ノラソラの“ノラ”は野良仕事の「野良」、“ソラ”は「空」からとり、「越後妻有(*1)の野原の上、空の下でこの地球に生きる子どもの根っこを育てる」という願いを込めて付けました。

 

スタッフでテーブルワークを重ねていくと「子どもだけではなくて、親も地域の人もみんなで育ちあう」ことを大事にしたいという考えがみんなの中にあることがわかってきました。現在は過疎化していて地域の子どもが少なくなり幼稚園や保育園もなくなってきています。それでも地域の人たちと、子どもは地域の宝として一緒に育ちあっていきたいと思うんです。

 

(*1)越後妻有 十日町市と津南町にまたがる地域の総称

 

—テーブルワークでの思いを、どのように保育に落とし込んでいきましたか?

 

29年度のノラソラは十日町全域をようちえんと考えて、いろいろな地域に行って地域の協力者と一緒にイベントを開催することにしました。

 

一般的には拠点を一か所に置くことが多いのかもしれませんが十日町は市内でも地域性が異なるので、どの地域もいいよねっという話になり、メンバーで地域コーディネーターになれる人が地域とノラソラをつなげるようにしました。

 

それから、十日町の特性を生かすことも大事にしたいと思っていました。半年が雪に埋もれている十日町だからこそできる手仕事や保存食づくりなど、昔から受け継がれてきた地域の知恵みたいなものを保育の中で受け継いでいきたいですね。

 

今の子育ての環境は昔に比べると核家族化していて周りとのつながりが希薄になっていると思います。だからこそ子育ては大変なだけじゃなくて、地域の人とつながって子どもも「のびのびできたよ」という場所にノラソラがなってくれたらいいなと思っています。

 

イベント型でスタート!新たな気づき

—実際に活動をするなかで、森のようちえんに対する考え方に変化はありましたか?

森のようちえんとは〇〇である!と定義しづらいけれど、そこが型にはめない、良いところだなと思っています。

 

一斉教育はある程度の型にはめようとするから、馴染めなかったり入れなかったりする子が出てしまうけれど、森のようちえんはその辺の懐の広さがあって、「そういう形があってもいいんじゃない」と受け入れられる場所にしたいです。

 

最近ネットなどでは「45分間座れるように」など、幼稚園や保育所を小学校に入る準備の場だと考えていて、森のようちえんに行っていた子は馴染めないのでは、という記事を目にしました。

—確かに、そのように心配する声をよく聞きます。

その点について他園に見学に行った際に聞いてみましたが、子どもは適応能力があるので大丈夫という話を聞いて、今では心配していません。それよりも小学校に入ると一斉教育になり、決められた時間に決められたことをするという環境が変わらないのであれば、学校にあがるまでの期間だけでも子どもたちの時間の流れで子どもたち自身が選んだ好きなことをやってほしいと思うようになりました。

小学校生活をうまくできるための幼児教育ではなく、幼児期の発達に応じた保育をしていきたいです。

子どもたちは自分の実体験で知識を獲得していきます。私たちおとなができることはその環境を用意すること。正解がないものに対して、おとなが「これは〇〇だよ」と指定してしまうと、子どもはそれが違ったときに「間違えた」と捉えてしまうけれど、そう思ってほしくありません。おとなはできる限り手出し口出しはしなくていいと思っています。その環境が課題を与えて、その子の成長に応じてなにか目標をクリアしていく欲求を生み出してくれるのではないでしょうか。

 

 

 

—実際にやってみて、どうでしたか?

写真4ノラソラ

29年度は第3回目となる10月開催日が天候不良により中止となりましたが、これまでに2回のノラソラを実施しました。

 

その中で印象的だったことは山道を歩きながら地域の人が草笛を吹きはじめると、それを見たお父さん、お母さんがすごく食いついたことです。

子どもより一生懸命になってそのうちに子どもそっちのけで練習していて。それがすごくたのしそうで子どもが「なになにー」と寄ってきたんです。でも子どもの手は小さくてうまく草笛ができなくて、お父さんお母さんが手を添えたり、地域の方に教わったりしていました。何気ない風景だったけれどそれがすごく印象に残りました。

 

お母さんたちがこれしちゃダメあれしちゃダメとならずに、開放的でのんびりしていられる雰囲気が子どもに伝わっていて、親子でしあわせに過ごせるのだなと思いました。

 

今の世の中、人に迷惑をかけてはいけないとか、〇〇させてはいけないという緊張の中で子どもを見ていることもあるけれど、親子でのびのび過ごしている姿を見てノラソラをやってよかったと思いました。

 

 

スタートの次のステップは、思いを広げること

—森のようちえんノラソラのこれから、どのようにお考えでしょうか。

今のノラソラのスタッフメンバーは初期からワークショップを重ねて、自分たちがどういう子育てや保育をしたいかという思いや経緯が共有されていると思います。

 

保育や子育ての話をメンバーでしていく中で、意見がぶつかることやすれ違うこともあります。それでも私たちは「まぁそういうこともあるよね」とそれぞれの違いを受け入れたうえでとことん話し合って進んでいくので、その点は苦労という苦労にはなっていません。

 

ただ森のようちえんを始めるにあたって心配だったことは、けがなどのリスクマネジメントです。自由にあそぶ分、かすり傷などのけがは起きます。命に関わるけがでなければよいとスタッフ側は考えていますが、親御さんにも理解して参加してもらっているかが心配でした。

 

他園を見学した際に、保育目標や保育形態を事前にしっかりお話して、日ごろから親御さんとしっかりコミュニケーションをとって保育を行うことが大切なのだと知りました。

—信頼関係をつくっていくことなのですね。

園児をいっぱい集めてお金を得ることが目的ではないので、保育理念や在り方などを理解してもらったうえで参加していただけるようにしていきたいです。

ただしイベント型では伝えきれない難しさもあります。今は参加費の中で保険をかけていますが、リピーターになってくださる方もいるので、少しずつ私たちの思いを知ってもらえるようにインターネットでも発信し、理解が深まったうえで参加してもらうようにはたらきかけたいと思います。

 

今はイベント型でも、継続していくことに意味があるので続けていきたいです。預かり保育などもっと定期的にできるようになれば、スタッフには保育士もいるので子どもの特性や発達を見て対応できていくと思います。

 

スタッフもボランティアで、家庭や仕事ももっていますし、資金も参加者からの参加費だけなので、運営的には大変な点もあります。

 

ノラソラが地域に受け入れられて持続的な活動になっていくように考えることも、これからの課題です。

 

—「地域とのつながり」がキーワードになるのですね。

ノラソラの運営はひとりではできなかったけれど、みんなで集まって「私が思っている保育はこんなのだけど、みんなはどんな風に思う?」と話す場に来た人たちと共通の思いがあったから形になってきたのだと思っています。

 

そしてそこに地域の人たちが入って、おじいちゃんおばあちゃんも、お父さんもお母さんももっと笑顔になる輪ができたらいいですね。昔はきっと地域にちょっと怖いおじさんがいて、悪いことをしたらコラ!と怒ってくれる環境がありました。同じ「怒る」でも親が怒るのと第三者が怒るのでは受け止め方が違い、子どもにとってもそれが成長の糧になっていきます。そうした昔ながらの子育てを受け継ぎつつ地域がつながっていけたらいいと思っています。

 

 

 

—最後に、一言お願いします!

先日スタッフで集まったときに「今って生活と保育が離れてしまったよね」という話になりました。

昔の人は子育てが生活の一部、生活の延長だったと思うんです。だから私たちはノラソラの中で保育と生活を分けずに生活の一部、人生の一部の中に子育てや保育があるという位置づけをしたいです。

子育てや保育と、生活をわけるから難しくなるのであって本当は「自然のことだよ」、みんなの中に子どもがいて生活していくことが「普通のかたちだよ」という在り方がノラソラでできたらいいと思っています。

そして十日町らしい保育をみんなで考え、取り入れられることを願っています。

 

 

お話を聞いた人

馬場久美子さん

埼玉県さいたま市出身。 元システムエンジニア。
結婚を機に家業を継ぐ夫と共に十日町市へ移住。 一児の母。
越後妻有森のようちえんノラソラを主催している未来プロジェクトの代表。

越後妻有森のようちえんノラソラ

主催:未来プロジェクト

住所:〒948-0083  十日町市本町1丁目下285−1

Mail:norasora.tokamachi@gmail.com

HP:https://norasora.jimdo.com