雪の日舎
わくわく発見記

「なぜ寿司職人が、お箸で起業?」越後杉箸から始まる地域循環型ビジネス〜R4Yours 桑原亮さん/新潟県津南町

2019.05.17

現在スノーデイズファームで販売中の「越後杉箸」。

 

ECショップに掲載するにあたって、販売者であり、プロデューサーのR4Yours代表・桑原亮さんに商品のことやつくりはじめるきっかけについてお話を聞かせていただきました。

 

桑原さん、実は本業は寿司職人!

津南町にある「松海寿司」を経営しています。

 

 

 

津南町でお寿司と行ったら、ここ。

海のない、中山間地に位置する津南町でも、新鮮な魚介料理やお寿司が食べられると人気のお店です。

また定番のお寿司だけではなく、創作料理もとても美味しくて若い世代からも親しまれています。

 

わたしも何度もこの暖簾をくぐったことがありますが、今日はお寿司を食べに、ではなく、「越後杉箸」のお話を聞きに開店前のお店にお邪魔しました。

 

 

「僕、学生時代は地方行政に関心があったんです」

 

カウンターでお寿司を握る姿が、わたしの中での桑原さんのイメージだったのですが、この日は意外な言葉から話がスタートしました。

 

「僕、学生時代は地方行政に興味があって、ずっとそういう仕事をしたいと思っていたんです。高校、大学とそういう分野を専攻していましたし、そのための勉強や資格取得も視野に入れていたんです。

でもいろいろな事情もあって、地元である津南町に帰ってきてこの店を継ぐ選択をしました。

そのときは今まで勉強してきたことはバッサリ切って、家業に入ったんですけど、やっぱり地域づくりの分野というのはずっと関心があったんですよね」

 

 

飲食店経営だからこそ、リアルに感じた地方の問題

寿司職人と地方行政。全く違う分野のように聞こえますが、実は飲食店経営をしてきたからこそ、地方行政について深く考える機会ともなったと桑原さんは話してくれました。

 

「僕が津南町に帰ってきた頃はバブルの末期だったので、店の売り上げも今より4割くらい多かったんです。まだみなさん飲み歩いていたし、夜の町は賑やかだったんですよね。でもそれから10年くらい経ったときに、津南町の飲み屋さんの流れがぱたっと変わったんですよ。お客さんが来なくなってきた。

そのとき、僕は地方行政を学んでいたので、お客さんが来ないのはただ不景気だからではないと思ったんです。

そこで津南町の状況をいろんな人から多角的に聞いてみました。そうすると、お客さんが来ない=不景気という単純な問題ではなく、人口問題とか福祉、教育、林業、農業、さまざまなものがつながって、お客さんが来ないという問題になっているんだということがわかったんです」

 

 

不景気というと、自分たちではどうにもできない世界の話に聞こえるかもしれません。
しかし、「不景気だから」で済ませてしまうのは、実は自分たちの足元を見ていないということなのかもしれません。

本当は身近なあの人の暮らし、それに関わる福祉や教育環境、そして仕事や所得に厳しさがあるということに目を向けなければいけないのではないかと感じます。

 

「町内の皆さんの一般所得が上がらないことには、この町の一番根幹の部分は変わらないだろうと思っていました。それが30歳くらいの頃。それから10年、店の世代交代をする40歳になったら、自分の会社を作ろうと考えていたんです。

お金主義っていうわけじゃないんですけど。例えば、子どもにこうしてあげたいとか、飲みに行きたいって思っても、小遣いが上がらないとできませんよね。やっぱりそこだなって思ったんです」

 

 

会社で抱え込まない、新しいあり方

 

「だからはじめに、10人くらいでそれが実感できるビジネスを何か作れないかなって思っていたんですよね。最初から会社の人間は僕一人で、皆さんがサイドビジネスで関われる形がいいと考えていました。

そんな僕の思いを体現できる会社で、皆さんがノーリスクで、僕だけがリスクを負ってやるんだ、しかもそれが自然環境のため、町のため、次世代のためにもなるだろうと思ったんです。僕はそういう動きが地方で出てくるんじゃないかなってずっと思っていたんですよね。

 

例えば僕が誰か一人雇ってもいいんですけど、その一人に500万払うなら、10人にサイドビジネスで50万ずつ払った方がいいなって。そういう発想でやっています」

 

桑原さんはこれを「地域循環型ビジネス」と言い、愛する地元の町に漂う閉塞感を打破し、津南町に暮らす一人ひとりが誇りと自信を持つきっかけを作ろうとしています。

「10人がそれを実感できること」

ここに重きを置いているのは、「地域」というものを一人ひとりの人生の集まりだと考えているからであり、「顔の見えるあの人」にフォーカスして考えているからだろうと感じました。

 

 

 

「おかげさまです」

実際に越後杉箸は、さまざまな方が関わって一つの商品が出来上がります。

 

「本当におかげさまです。僕はなにも作れないんですよ、みなさんが越後杉箸を作ってくれているんです。本当に、みんな素晴らしいんです!」

 

今までのお話の中で、一番目をキラキラ輝かせて話す桑原さん。

そのわくわく感をわたしも感じたくて、今回は越後杉箸に関わっている津南町内の方々にもお話を聞くことができました。

 

 

1話には収まりきらない、このわくわくを全6話にわたって連載していきます。

 

ぜひわくわくしながら、ご覧ください!

 

 

 

お話を聞いた人

桑原亮 R4Yours

所在地 新潟県中魚沼郡津南町大字下船渡戊537-2(津南松海寿司内)
連絡先 025-765-4371

 

新潟県津南町出身。学生時代は地方行政を学んでいたが、現在はUターンし、家業の「松海寿司」を継ぐ。寿司職人、飲食店経営者として実績を積むかたわらで、R4Yoursを立ち上げ、地域循環型ビジネスに取り組む。その第一弾の事業として、様々な方との協業を経て、「越後杉箸」を販売。7月にはフランス・パリで行われるJapanExpoにも出店するなど、国内外から注目を集めている。

 

 

 

 

■桑原さんがプロデュースする「越後杉箸」はこちらからご購入いただけます。大人用、子ども用、菜箸というラインナップでお届け中!

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諸岡 江美子

諸岡 江美子

スノーデイズファーム(株)webディレクター/保育アドバイザー。1987年、千葉県船橋市生まれ。東京都内の認可保育園にて5年間勤務、その後新潟県妙高市にある国際自然環境アウトドア専門学校、自然保育専攻に社会人入学。津南町地域おこし協力隊を経て、現在はClassic Labとして独立。雪国の「あるもの、生かす」という生き方を研究している。編集者、エッセイスト。