雪の日舎
どうつくる?しあわせなはぐくみ

第2話 自然豊かならOK?問いたい保育の質〜移住した保育士たちの座談会

2018.02.16

 

信越地域に移住した元保育士たちの座談会、第1話ではそれぞれが里山に来た理由を探りましたが、第2話では話をぐっとそれぞれの保育観に合わせました。それぞれがいまは直接保育の仕事をしているわけではありませんが、「こどもをまんなかにした、しあわせなはぐくみのフィールド」を作るためのヒントがこの中にはあると思います。

 

座談会メンバー

(写真左から)

諸岡龍也

大阪府出身。京都府の公立保育園で13年間勤務。デンマークの森のようちえん見学を経て、新潟県妙高市にある国際自然環境アウトドア専門学校野外教育学科に社会人入学。卒業後妙高市に残り、現在は地域のこし協力隊として活動中。

 

吉田咲

静岡県裾野市出身。地元の公立幼稚園で3年間勤務。その後結婚を機に長野県栄村に移住。栄村では、学童保育の指導員や、イベントのサポートなどを行う。現在はもうすぐ1歳になる愛息子の子育て真っ最中。

 

高橋真梨子

埼玉県日高市出身。大地の芸術祭に関わったことがきっかけで十日町市に移住。十日町市内の保育所に1年半勤務後、現在は夫と農業「あらたまや」を営みながら、市内のお母さんたちと「森のようちえんノラソラ」を年4回実施している。

 

川延誉

東京都世田谷区出身。東京で11年間幼稚園教諭として働く。「絵本と木の実の美術館」の大ファンで通っていたことをきっかけに十日町市へ。現在はにいがたイナカレッジのインターン制度を活用し、雪の日舎で活動中。

 

諸岡江美子

千葉県船橋市出身。東京都内の認可保育園で5年勤務。その後妙高市にある国際自然環境アウトドア専門学校研究科自然保育専攻に社会人入学。卒業後は津南町地域おこし協力隊として活動。現在は雪の日舎でwebの編集、執筆などを行う。

 

 

 

「田舎にいると子どもはのびのびと育つ」は幻想

高橋 私こっちに来て一番ショックだったことがあって。田舎の子どもは外でいっぱい遊べていいなと思っていたんですけど、意外と都会化されていました。親も外で遊ばせたくないわけではないんですけど、見ていられないから家の中にいてほしいとか、休みの日はショッピングモールに行くとか、そういうライフスタイルが根ざしていました。一概に田舎だから子どもはのびのびと育つわけではないんだなって。

でも、私が住んでいるような小さい集落にとっては子どもって貴重。これから小さな子どもが育っていく環境をどうするかということは考えますよね。

 

 

龍也 子どもは変わったって言われるけれど、子どもはいつの時代も変わっていないと思います。変わったのは大人ですよね。変わったというか、変化を嫌がるようになったのかな。変化にフレキシブルにやって来た人が多かったはずなのに。

 

 

吉田 以前、村に公園を作るという話が出たんです。結局その話はなくなったんですが、そのときに村のお母さんたちは「公園はどこにもないし、どこで遊ばせたらいいか分からないよね」と話していたんです。私たちからしたら、こんなに自然がたくさんあって羨ましいくらいの環境なのに、地元の人たちからは何もないというふうに見えているんだなというギャップを感じました。

そのときに子どもというより、親の考えや価値観が違うんだなと思って。そこを伝えていくのって難しいなとも思いましたね。

 

龍也 その部分は難しいですよね。俺は大人も一緒に遊んだらいいと思います。そうしたら絶対に面白さがわかるから。子どもだけのイベントはしたくないんです。

 

例えば生き物を探すようなイベントだとしたら、大人の方が「この川のこの辺りには何がいる」っていうことを知っているわけですよ。それが一緒に参加している子どもに伝わる。俺はその大人と子どもの間を媒介してイベントとして提供するだけでいいんです。そこで遊びが生まれていくから。その遊び要素と科学要素があると、子どもの「へぇ」とか「すごい」という感動が出てくるんです。俺はそういう瞬間が好きなので、「遊び」っていうのは外せないですね。

 

親子だからって、ずっと一緒にいなくてもいい

 

高橋 諸岡さんは親子イベントみたいなのをやっているんですか?

 

龍也 親子イベントというか……例えばこないだ開催したのは稲刈りイベントで、親子でも誰でもどうぞという感じ。でも地元の人は必ず参加してもらうようにしていますね。そこから輪が広がっていくのが好きなので。でも「親子イベント」ではないんですよね。そうしちゃうと「親子」というカテゴリしかなくなっちゃう。そうじゃない方がいいかなと思っています。

 

吉田 確かに、「親子」となっていると、親が子どもを見ていないといけないという感覚になってしまいますよね。

 

 

龍也 いまの人はカテゴライズされると安心するんでしょうね。

 

高橋 イベントで森のようちえんするときは、私たちスタッフも見ていますから、お母さんたちも一緒に遊んでくださいねと言うんです。それでもやっぱり子どもの付き添いになってしまいます。それが慣れているから、いつもの延長線上でやってしまうんでしょうね。なかなかその枠組みを外すのは難しいなと思いますね。私たちも在り方を模索しています。親御さんの意識を変えていくことはやらないといけないけれど、難しいですよね。

 

龍也 赤ちゃんみたいな感覚遊びを大人もいっぱいしたらいいと思います。

 

吉田 ノラソラ、すごい行ってみたいです!

 

 

 

高橋 みんな0歳の子も連れて来ていますし、ぜひ来てください。まだまだ始まったばかりで、課題もたくさんあるんですけど、子どもたちもいい表情をしていて、私たちスタッフも楽しい、それが一番かなと思っています。大人が楽しくないところって、子どもも楽しくないですよね。保育所で働いているときは、私自身が楽しくない時間というのが多かったんです。子どもと遊ぶのは楽しいんですけど、子どもに何かやめさせないといけない、自分が言いたくないことも言わないといけない。

 

自分が一番心地よい場所で、子どもと一緒にいられるというのはいいなって思いました。

 

 

 

 

田舎だから、都会だからではない、本質的に大事にしたい保育とは

 

江美子 先ほど、田舎だから子どもがのびのびと育つわけではないという話がありました。本当にそうだなぁと思うのは、都会でも確かに自然は少ないけれど、本質的に大事なことを保育の中で実践している園というのはたくさんあると思います。そういう点では川延さんが働いていた園ではシュタイナー教育(*1)を取り入れていたというところで、私たち4人が働いていた園とは、また少し違う面白さがあったのではないかなと思います。その辺り、どうでしたか。

 

川延 そうですね、全部が全部シュタイナー教育に沿っていたわけではないのですが、部分的に取り入れていたり、研修や講座にも参加させてもらっていました。私自身学んでいく中で、保育全部にシュタイナー教育を取り入れるというのはすごくいいなとは思うんですけど、日本でやるとなると環境の面で難しい、だから部分的に取り入れるのは私も賛成でした。私が働いていた園も、「学びの芽が遊び」と言っていて、保育自体は勉強だとか小学校の準備のようなことはなくて、保育自体はすごくよかったです。

 

 

吉田 森のようちえんでもシュタイナー教育を取り入れている園は多いですよね。

 

川延 よく、ひらがなを習うとか、順番に並ぶとか、時間で区切るとか聞きますけど、そういうこともなかったです。キリスト教の園だったので、礼拝とかクリスマスになると降誕劇(*2)はありましたが、それもその日のために練習するのではなくて、遊びの中でお話しながら「じゃあ今度お母さんたちお呼びしましょう」という流れでやっていたので、楽しかったです。実は私もキリスト教の園ではないところで働いたこともあったのですけど、運動会だから、発表会だからとそのときどきに当てはめていく保育は合わなかったです。

 

でも保護者にとっては、アピールしやすい保育の方がわかりやすいんですよね。長時間保育しています、ひらがな書けます、45分座っている時間がありますとか。私たち保育の質とかを考えるんですけど、保護者はそうではないから、本来何が大切なのかとどう伝えていくかって難しいねと職員間ではよく話していました。

 

実を言うと、こっちに来るときにやっぱりどこかに勤めないとなと思って探したのですが、勤めたい園がなかったんですよね。アピールする保育が主流でした。

 

 

高橋 こっちは子どものための施設というより、大人のための、という部分が大きいのかもしれません。遊ぶフィールドは多いけれど、選択肢は少ないのですよね。

 

川延 東京にいたときに、最近は保育とか遊ぶ場がエンターテイメントになっているという話を聞いて、なるほどなぁと思いました。楽しませてあげよう、遊ばせてあげようって提供するばかりになっているということですよね。

 

江美子 私がいまいる地域でも都会の子どもたちとの交流をしているんですけど、子どもたちを連れて来る先生たちは「子どもが自分で考える経験をさせたい」という思いだったんです。でも、はじめに地域に来たときに、地元の人はせっかく来てくれたのだからおもてなししないといけないと張り切ってしまった。それに対して先生たちは「何もしないでください」と念を押していました。せっかく自然豊かなところに来ても、全部大人が用意してしまったら、ディズニーランドに行くのと同じだと言ったらしいです。確かに、いくら自然豊かなフィールドでも大人の関わり方一つで子どもが何を得るか、何を感じるかって制限されてしまうんだろうなと思います。そういう面では、都会だから田舎だからって関係ないなと思いましたね。まぁ地域の人も嬉しいからいろいろやってあげたいという気持ちもわかりますけど。

 

高橋 価値基準がね、そっちの方がいいと思ってしまっているからですよね。都会の基準になっていると思います。だからどうしてもカレー作っちゃったりとか。みなさんとても謙虚なので、こっちのものが素直にいいということがなかなか認められないんですよね。本当は用意されていないものがいいのになとは思います。

 

 

(*1)シュタイナー教育 オーストリアの哲学者ルドルフ・シュタイナーが提唱した教育法。人間を7年毎の周期に分け、それぞれの時期に育てることがあるとし、成長過程に合わせたカリキュラムを行う。

(*2)降誕劇 イエス・キリストの生誕の物語を劇としてクリスマスの日に演じ、お祝いをする。キリスト教の園では、クリスマスに行われる。

 

 

小学校に行ったら困る?という不安

 

龍也 川延さんが働いていた園はすごく面白そうだけど、遊びって実際はどんな遊びをしているんですか。

 

川延 外で遊んでもいいし、部屋で遊んでもいいし、何をしようって意識はしていませんね。本当に自由です。やりたいことをやるという感じ。「今日はお外で食べましょうか〜」っていうくらいの自由さです。一応運動会もあるんですけど、毎日練習するとかではなくて、遊びの延長で「じゃあ今度お母さんたちお呼びしようか」という話をするんです。並び順とかも決まっていないので、その日そのときに並んだところでいい。

 

龍也 へぇ、いい園ですね。森のようちえんがやっていることと同じ感じ。東京にもそんなところがあるんですね。

 

 

川延 でも他の園を見ると、号令で動いているところもありますよね。うちの園はそうじゃない、でも小学校に行ったときにはいろいろな園から子どもたちが集まってくるんです。例えば、絵を描くこと一つにしても、「顔はこう書きます」と教えているところもある。うちの園は肌色のクレヨンがなくて、肌の色は何色でもいいんですよ。もし、正解・不正解で判断する人がいれば、後者は評価されないのかもしれません。

 

龍也 そういう子どもを守ってあげる大人がいることが大事なんじゃないですか。あなたはあなたでいいんだよって言う、そう言う大人がたくさんいることが大事なんじゃないかなと思います。

 

川延 うちの園では共感ということを大事にしていました。巣立っていく子たちを見ていると、子どもはここだけで育つのではなく、いろいろなところで揉まれて育っていくのだなと思います。でも園にはちゃんとその子たちが帰ってこれる場所を作っているんですよね。そういうことが大事なのかなと思いました。

 

 

 

 

 

自然豊かなフィールドである里山にやってきて、一人間として自分自身が子どものように心のままに暮らしを、遊びを楽しんできた私たち。

 

同時に、自然豊かな環境さえあれば、子どもも大人も人間として豊かに育っていくわけではないのだということ。

これだけ豊かな自然やそこに寄り添う人々の営みの魅力に

気づかずに暮らしている大人たち、そして子どもたちがいる現実にも直面しました。

 

それらを踏まえた上で、どうしたら子どもも大人も「しあわせなはぐくみ」をつくっていけるのか。

 

それは都会の安心、安全な環境でもなく、田舎の自然豊かな環境でもなく、私たち一人ひとりの大人が子どもたちの育ちに何が大切なのかを考え、たった一人でもいい、「あなたはあなたでいいんだよ」と言ってくれる場所を保障することが大事なのではないでしょうか。

 

そんな場所を作ってあげられる大人を増やすためには、大人自身も「大人」「親」である前に一人間として、「あなたはあなたでいいんだよ」と受け止めてもらう経験をし、その上で自分の周りのフィールドを、そして世界を、自らの感覚に素直に感じとり、楽しんでいく、そんな姿勢が必要なのではないでしょうか。

 

座談会に参加してくださった皆様、貴重なお話をありがとうございました!

 

 

 

 

 

諸岡 江美子

諸岡 江美子

雪の日舎webディレクター/保育アドバイザー。1987年、千葉県船橋市生まれ。東京都内の認可保育園にて5年間勤務、その後新潟県妙高市にある国際自然環境アウトドア専門学校、自然保育専攻に社会人入学。津南町地域おこし協力隊を経て、現在はClassic Labとして独立。雪国の「あるもの、生かす」という生き方を研究している。編集者、エッセイスト。