第6話 雪の日舎がつくりたい、「こどもがまんなかの、フィールド」
2018.04.14
第1~2話では、移住保育士たちの座談会、
第3~4話では、新潟県上越市「森のようちえんてくてく」の園長・小菅さんへのインタビューや事例、
第5話では、新潟県十日町市で始まった「越後妻有 森のようちえんノラソラ」についてお話を伺いました。
一連の取材を通して、雪の日者としても「私たち自身がつくりたいくらし」を振り返り、
見つめ直す機会となりました。
「農村に、こどもがまんなかの
しあわせなはぐくみのフィールドをつくりたい」
今まで、そう書いてきましたが、
具体的にそれってどういうもの?
この問いに、改めて向き合ってみました。
農家さんと、保育の専門家は、同じことを話している
私たち雪の日舎のスタート地点は「農業と、子育ての相性がすごくいい」という気づきでした。
山地で農業しながら聞いていた、農家さんの悩みと、
移住女子の活動をしながら聞いていた都市の女の人たちの悩みを聞いていると、
どちらも同じことを話していたのです。
農家さんは、作物をはぐくみ続けることへの不安、
都市の女性は、都市でこどもや、それにまつわるくらしをはぐくむことへの不安、
双方ともはぐくむ不安を話してくださいました。
一方で、私自身、農業をしながら子育てをするなかで、
「農家の師匠が話してくれる作物のはぐくみ方と、保育の専門家が話すこどものはぐくみ方、それもどちらも同じことを話している」ということにも気づきました。
農業と保育は、実はとても相性がいいはず。
そんなとき、なぜ農村は衰退したのだろうかと私たちなりに考えたときに、
しごと、くらし、こそだての分断から生まれているという仮説を立てました。
都市では、その分断のなかでいかにサードプレイスを豊かにするかという方向に向かっていますが、
農村は、分断をなくし、地続きにすることで課題を解決できるのでは、と思いました。
娘と畑で過ごした、めちゃめちゃ楽しかった日々
そんな「できるかも」という可能性は、私自身が、農業を続けながら折々で娘を仕事場、つまり田畑に連れて行っていたからかもしれません。
産前は
「子育てしながら農業なんて、できるわけがない。女には農業は無理」
と言われ続けてきたのですが、
実際にやってみると、それがもう本当に楽しかったのです。
例えば、おもちゃを与えなくても、自分でどんどん遊びを見つけて楽しんでいます。
そんな娘の言動は、いつもの農作業にあたらしい世界を見せてくれました。
そうやって娘の姿とともに働く毎日は、本当にたのしかったです。
また、山のなかには土や葉っぱなど、たくさんの遊び道具があるので、
狭い家のなかで「あれもだめ、これもだめ、あ〜それは危ない!」と監視に疲れるようなことがほぼありません。
日常的に土を触っているせいで免疫がつくのか、体調を崩すこともあまりなく、本当に元気です。
そしてときどき、地域の人や家族・親戚の方たちなども一緒に作業をするので、
たくさんの見守る目があって母は楽だし、娘は多様な人と触れ合ってたのしそうでした。
いつしか
「お母さん、おやまに行こう」
「明日、いねかりする?」
「はしばさん(私の師匠)に聞こうね」
と寝床で話してくれるようになりました。
干し芋を販売するときは
「これ、あさちゃんが作ったんだよ!」
と自慢げに話してくる姿がほほえましく、よく芋の絵を書いてくれます(笑)
しごと、こそだて、くらしが地続きになるために、必要なこと
とは言え、もちろん娘と2人だけだと作業がなかなか進まない日もありました。
そんな日々が格段にラクになり、さらになんとなく感じていた「農村や農業が持つ、こどもをはぐくむ力」に対して、新しい視点と発見を与えてくれたのが、この方。
東京でシュタイナー教育を取り入れた幼稚園で11年働いていた川延誉さん。
十日町市に移住し、雪の日舎にインターン生として来るようになり、私と娘だけでなく、3人で農作業をするようになってからでした。
その当時は
「誉さんと私の2人で、1.5人分はたらく」という感じだったかもしれません。
でも、保育園に預けて働くでもなく、
仕事を諦めて専業主婦になるでもなく、
子育てしながら働く私にとっては、それがちょうどよかったです。
農業や農村には、こどもを育てる力があると思っていましたが、
その要素を、誉さんは上手に引き出し、娘の好奇心を遊びや学びに変換してくれました。
でも、それは決して「与える」遊びでもなく、「はたらく」お手伝いでもありません。
主体的に「作り出す」遊びであり、家族やコミュニティの中での役割だったのです。
いろんな形の幼稚園があるけれど、「この農村がまるごと、おやまのようちえん」のようだね、と二人で話しました。
この特集の「第3話 なぜ、幼児期の親子の居場所を作るのか〜森のようちえんてくてく園長 小菅江美さん」でも取材させていただいた小菅さんも「農業者が一番の教育者」であり、森と暮らしのゾーンが分断されているヨーロッパの森のようちえんと、日本の森のようちえんの違いは、「森(里山)」のなかに、くらしがあることだとも話されていました。
そして、くらしの中には、こどもにも役割があります。
自分ができること(役割)のなかで「あなたはあなたでいい」という思いを
誉さんから認めてもらいながら、伸びてゆく娘、
一方で、しごと・くらし・こそだてに無理がなく、ほっとする自分自身、
しごとと、くらしと、こそだてが混ざり合うなかで営まれる、農村のよさを本当に感じます。
それをいかに大人たちが引き出していくかが、とても重要だとも痛感しました。
そして保育士たちの座談会でもあったように、
「そのなかで暮らす親がとても楽しそうで、しあわせそうだと、
こどもたちも安心感を持って、のびのび楽しむ」
「豊かな自然環境だけでは、こどもは育たない。自然と子どもをつなぐ、大人の存在が必要。」
ということにも、誉さんと娘の3人で働くようになって感じたからこそ、大変共感しました。
こどもをまんなかにすることで生まれる可能性を見てみたい
私自身「こどもの成長に立ち会える、暮らし方、働き方がしたい」という、心の奥にあった思いに気づきました。
それが「こどもをまんなかにした、フィールド」であり、
しごと、くらし、こそだてが地続きであった農村ならできるかもしれないと思いました。
だから、「こどもをまんなかに」とは
「こどもを放ったらかしにして自分を優先しすぎる親、けしからん!」
でもなく、
「労働力不足のこの時代、専業主婦するなんて、けしからん!」
でもなく、
「こどもは大事な存在だから、こどもが大人になるまでは自分のことより、こども中心の生活にしましょう!」
でももちろんありません。
こどもをまんなかにして、しごとと、くらしと、こそだての分断をなくすことで
作物をはぐくむ農業者も、
こどもをはぐくむ親たちも、
この地域で、自分のくらしをはぐくむチャレンジをする人も、
様々なはぐくみに携わる人が皆、よりしあわせになるような仕組みができたらいいのに。
そういう場所で暮らしたい。
いや、農村で暮らす私たち自身が、
私たち自身と、未来の担い手となるこどもたちのしあわせのために、
その仕組みを
「新しい形の農園」という立場から作っていきたい。
その第一歩が、
地域の無農薬野菜で作る「雪国こどもおやつ」を届けること、
「くらし、しごと、こそだてを地続きにするサービスと拠点づくり」の2つで雪の日舎は始まりました。
都市ではないここ、
農村に、いちばんたのしいはぐくみがある。
それは、こどもをまんなかに捉え直して、
「農村のくらし、しごと、こそだてを一緒に編み直すことで生まれる可能性」
かもしれません。
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佐藤 可奈子
株式会社雪の日舎 代表。1987年、香川県高松市生まれ。立教大学法学部政治学科卒。大学卒業後、新潟県十日町市に移住、就農。「里山農業からこころ動く世界を」がテーマ。著書「きぼうしゅうらく〜 移住女子と里山ぐらし」