小さな工場の無限のものづくりのチカラ〜新潟県三条市近藤製作所
2018.10.26
海を渡る鍬
「この鍬、ロンドンに行くんだ」
そう誇らしげに話してくれたのは、近藤製作所(*1)代表の近藤一歳さん。
9月に、イギリスのロンドンで開催される「燕三条 工場の祭典」で、近藤さんの作った鍬が展示されるそう。
壁一面に並べられた鍬は全て近藤製作所で作られたもので、お客様の要望に合わせて作っているため、ここに並べられている鍬に一つとして同じものはないそうです。
(*1)近藤製作所は新潟県三条市で100年以上続く鍬専門の鍛冶屋。
オーダーメイドの鍬の製作や、鍬の修理などを全国から注文を受けている。
現在は代表の近藤さんをはじめ6名で鍬を作っている。
日本人に合った鍬のかたち
「外国の農具は、刃が下に向いているT字型のものが多いんですよ。日本で鋤(すき)と呼ばれるものや、フォークと呼ばれるものが外国では普及しているように感じます。それに比べて、日本は刃が使う人の方向に向いているんです。鍬を作っていて不思議に思っていたんです」
そう話してくれた近藤さん。
わたしも普段、鍬を使っているけれど、鍬の刃が向いている方向について考えることはありませんでした。
なぜ使う人の方に刃が向いているのでしょうか。
それには、ちゃんと理由がありました。
「鍬のかたちは、体型が関係していると思っています。外国の人は、日本人よりも体格が良く腕力が強い。しかし、日本人は他の国に比べて体格が小さいため、腕力だけでは土は耕せないんです。全身を使って耕すほうが楽になるので、日本の鍬は使う人の方に刃が向くようになったと考えています」
なるほど、鍬の刃が向く方向にこんな理由があったとは初めて知りました。
同じ鍬でも、国によって形が違うなんて考えたこともありませんでした。
近藤さんは農民の暮らしを描いた外国の画家の絵や、写真を見て「なんでだろう」と問いを持って研究しているそう。
そうやって自分なりの答えを導き出したからこそ、オーダーメイドのものづくりができるのだということを教えてもらったような気がします。
鍬作りに対する近藤さんの熱心な気持ちが伝わる瞬間でした。
備品も作る、三条ものづくりのチカラ
工場を案内してもらっているとき、気になったのは鍬を作るための備品の数々。
熱した鍬を掴む道具などの備品が、数多く並んでいます。
これらの備品は使い方は同じでも、全て少しずつかたちが違うそうです。
「お客様の欲しい鍬をつくるために、どんどん種類が増えていったんだ。これも自分たちで作っているんだよ。自分たちで作れないものは、周りの工場に頼んでいる。協力すればなんでも作れるのが三条だね」
お客様の欲しいものに対してとことん向き合う三条の工場。
そのためには、鍬を作る道具も一つ一つお客様に合うものを使っていました。自社で作れないときは、近くの工場と力を合わせてなんでもつくりだします。
その柔軟性と技術力は、近藤製作所をはじめ、三条の工場にあるのだと感じました。
使う人が考えた鍬
こうして、100年以上続く近藤製作所では、これまでに何千種類の鍬を作ってきたそうです。
鍛治職人が少なくなった現在は、日本全国からオーダーメイドの鍬の依頼や修理がきています。
「ここまで作ってきた鍬は使う人が考えた鍬。必要としているかたちにすることが鍛冶屋の仕事だと思っています。だからどんな鍬でもお客様の要望があれば作れますよ」
今回のこども鍬もその一つ。
こども用は近藤製作所でも初めての試みだったそうです。
「こども用鍬なんて今まで鍬をたくさん作っていたけど思いつかなかった。だから作っていてとても楽しかったです」
そう近藤さんは言ってくださいました。
使う人を第一に考えて鍬を作っていることが、近藤さんの姿から伝わってきました。
時代に合わせてかたちを変えて
また同じ日本でも、ひと昔まえの鍬は今よりもかたちが大きく、重かったそう。
それは、今よりも農機具が発展していないために、鍬は土を耕す、盛るなど様々な役割を担っていました。
そして近藤製作所も、今のように販売するのではなく鍬のレンタルをして、その料金は農作物で頂いていたそうです。
今は多くの作業が機械化されています。
その中で鍬は、畑や田んぼの調整に使われるようになり、小さくなってきたそうです。
現在、近藤製作所は全国からくるオーダーに真摯に向き合い、時代に合わせた鍬を作っています。
「時代に合わせてものづくりをしていきたいですね」
そう話す近藤さんからは時代の変化に柔軟な心が伝わってきました。
100年以上続く理由が垣間見えた瞬間でした。
近藤製作所から学ぶ100年愛される会社
今回、無理なお願いかなと思いつつも、こども鍬の作成を依頼した近藤さん。
快諾していただきすぐに製作に取り組んでくださいました。
こどもが使いやすいように持ち手の長さの調整や、こどもが大人用の鍬と同じように作業できるように刃の素材をアドバイスをしてくださり、そんな姿に私たちも信頼して、「ああしたい」「こうしたい」とわがままを言うことができました。
そんななかで、近藤製作所からは、「使う人に合わせて鍬を作る」という揺るぎない信念と、100年以上も時代に合わせて進化し続けた柔軟性を感じました。
そして、できないことは近くの会社と一緒に取り組んだり、
お互いの強みを活かして、協働というかたちを取ることもあります。
会社としての軸は育てつつ、その中で時代の変化を受け入れ柔軟であること。
それが、長く愛される会社であるために大切なことだと、取材を通して学びました。
私たちスノーデイズファームはまだ走り出したばかり。
私たちも小さくても光る商品をはぐくんでゆきたいと、気持ちを新たにした1日でした。
■ものづくりの大先輩!近藤製作所さんと一緒に作った「こども鍬」はこちら
水沼 真由美
1994年、神奈川県横浜市生まれ。法政大学現代福祉学部卒。2018年3月に新潟県十日町市に移住。スノーデイズファーム(株)で新社会人としてスタート。働きながら社会福祉士を目指して勉強中。
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