雪の日舎
今日の佐藤の、かんがえごと

「動いていると道は開けるから。夢を語ってください」と声をかけていただいて

2020.05.18

「この季節が一番好きやなぁ」とつい口から出た。

 

 

 

じわじわと背後の山を、飲み込んでゆく霧、
空から降りてくる、甘い香り、
長靴が深く沈む、ふかふかの土の、これからのわくわく。
やっぱりこの場所が好き。

 

けれど、気持ちとしては正直いつもざわざわしていました。
今もですが、この場所での加工所計画が失敗してから、
いつもここへ来るときは、胸が押しつぶされて息が苦しくなります。

 

とは言え、季節は待ちません。さつまいもづくりの季節が始まりました。
あれからずっと農業を辞めることばかり考えていましたが
もう少しだけ粘ってみよう、と踏み出したのがこの春。

去年は妊娠出産もあり、農作業はお休みしていたので
ほぼ1年ぶりの畑。
楽しかった農業を思い出したいと、昔のように娘を連れて。

 

もちろん娘も1年ぶり。
あてもなくただただザクザク「こども鍬」を使ってそこらじゅうを削りまくる娘はこんな顔をするようになりました(^^;)

3年前のちょうどこの頃、大人の鍬を触って、うまくできなくて「キ〜〜〜!!!!フンガアア嗚呼!!!」と怒っていた娘がスマホアルバムから出てきました。

チャレンジしたいのに大人の鍬を使う娘に対して「ダメダメ」言っていた自分に、
「彼女が挑戦できるサイズを」と、こども鍬を作ったのを思い出しました。

 

そうやってこどもとたくさんのワクワクを共有していたの、とても楽しかったなぁ。

長い冬が明け、そうやって亀のスピードで「楽しかった農業」を取り戻してゆくなか
さつまいもの生産者さんたちの畝立ても始まってゆきました。

今年は一緒にほしいも用のさつまいもづくりをする農家さんが2軒数増えました。
また高齢農家さんとのバトンタッチという意味では1人新しい方も加わり。

 

そのなかで今年から新しく加わる方の畑の畝立てをしていたときでした。
その方もやってきて、少し立ち話。

 

その方は、2年前の加工所建設の際はトラブルが起きた方との仲介をしてくださったり
相談に乗ってくださったりと、本当にさまざまな面で助けてくださった方。
その方も、今年からさつまいも栽培をするとお声がけくださいました。


畑でその方と「さつまいもは面白い」という話をしているなか、

「とは言え、正直ちょっと干し芋続けようか悩んでいるんです」と勇気を出して本当の気持ちを言いました。

 

すると、

「わかりました、じゃあ辞めない辞めるは置いておいて、
今年は芋の生産者で慰労会しましょう!!

 

そこで夢を語ってください。前に話してたようなやつを。
夢は恥ずかしいかもしれないし、ばかにするやつもいるけど、
夢を語ることをばかにするやつは、やったことない人だから。

 

自分たちは芋を作ってるんじゃなくて、喜んでくれる人をつくってるんですよ。

動いているときっと道は開けるから。どうでしょう」

 

いままで「できるかも」と「やっぱりできない」を行ったり来たりしていましたが
本当に久しぶりに小さな勇気が湧いてきました。

そのときはじめて、周りの人たちに生かせてもらっていると思えました。
恥ずかしいことですね。
離脱させてくれない、放っておいてくれないって、本当にありがたいことなんだよと
自分の胸ぐらつかんで、自分に言い聞かして、
もう一度覚悟を何度も自分に問うています。

いままで一人で全部を頑張りすぎていた。
私に必要なのは同じ北極星を目指す仲間であり、頼る勇気でもあったように思います。
いままで干し芋で喜んでくださっていたお客様たちの顔が浮かびました。

 

「やるならさ、十日町から日本一の干し芋をつくろう、を合言葉にしよう」

と寝床で夫がつぶやいた。

3年前かな、生産者さんたちみんなで加工所の視察に行ったとき、
そういえば、日本一の、って言ってたなぁ…。

 

 

たくさんの人たちに支えてもらい、
ごめんなさい、私は生かしてもらっていて
加工所再チャレンジに向けて、少しずつ小さな覚悟の塊を
ぎゅっぎゅと固めいっています。もう一度、失敗を振り返っています。
苦しいですが、足元を固めながら、また飛べるようにがんばりたいです。

佐藤 可奈子

佐藤 可奈子

株式会社雪の日舎 代表。1987年、香川県高松市生まれ。立教大学法学部政治学科卒。大学卒業後、新潟県十日町市に移住、就農。「里山農業からこころ動く世界を」がテーマ。著書「きぼうしゅうらく〜 移住女子と里山ぐらし」