村でともに暮らす仲間と一緒に。「わたし」から始まる「まるけて」〜「里暮らしむすびや まるけて」代表・鑓水愛さん
2018.12.04
「移住」とは、暮らす場所を変えること。それは人生における一つの変化であり、一つの選択です。「移住」のきっかけは、人それぞれですが、移住女子たちに共通するところは、「移住」という一つの変化の中で、どう自分らしく、心地よく生きていくかに真摯に向き合っているところなのではないかと気付きました。
それでなくても女性は、結婚、出産、子育て、介護など、ライフステージの変化に心も体も環境も影響されやすいです。その分、しなやかであるけれど、悩むことだってたくさんあります。だからこそ、移住女子たちは、変化の中でも何を大切に生きていきたいのかがよく見えてくるのだと思うのです。
そんな移住女子たちのリアル、そしてしなやかさを、1週間のおわりにお伝えすることで、週末の時間にあなたにとっての「自分らしく生きる」を考えるきっかけになり、新たな気持ちで次の1週間に向かうことができたらうれしいです。
「枝豆の収穫をするから、畑に来てください」
そう誘われ、たどり着いたのは、
子どもたちの声が響く、可愛らしい「まめまめファーム」
その畑で子どもたちと、枝豆の収穫をしていたのは、
長野県栄村に移住して6年目の鑓水愛(やりみずあい)さんです。
鑓水さんは働いていたNPO法人信州アウトドアプロジェクト(現株式会社、以下SOUP/スープ)が栄村に拠点を移したことがきっかけで、栄村長瀬集落に移住。
SOUPでは、キャンプを始めとしたアウトドアイベントの企画や人材育成事業などを行なっており、アウトドアシーズンに入ると連日各地のキャンプの運営、企画などに携わっていました。
そんな鑓水さん、移住6年目の今年は一つの変化の年。今まで勤めていたSOUPに関わる比率を少なくし、新しい働きかたを模索しているところだということです。
「働きかたを変える」ということは
わくわくする気持ちと同時に、不安もついてくるもの。
なぜ、いま、働きかたを変えようと思ったのか、じっくり聴いてみました。
日常的にここにいたいって思うようになった
「働きかたを変えたいと思い始めたのは、SOUPの仕事がどうしても出張が多くなってしまうから。仕事優先になってくるじゃない。
以前はそれで満足していたけれど、村に住んでいるうちに、村の『暮らし』が楽しくなってきたんですよね。
村のお母さんたちの暮らしや知恵を教わりたいって思うようになったんです。
ただ、村のお母さんたちがやっている山菜採りとか、保存食作りって季節ものだから、出張に行っている間に終わってしまっていたんです。
やりたいけど、できない。
そんな中で、だんだんと、できるだけ村にいたいなって思いが強くなってきたんです。
2年くらい前からですかね。そういう働きかたにしたいって話はSOUPのメンバーには相談していました。
村に日常的にいたいって思うようになったことが一番の理由です。キャンプの仕事が嫌いになったわけじゃないですし、できる範囲でSOUPの仕事も続けていくつもりです。」
雪国の暮らしは癖になる、それが面白い。
出張に行っている間に過ぎてしまう、雪国の季節の移り変わりのはやいこと。
それはあるところでは、雪国のマイナス面としても語られることもしばしば。
しかし、「それがゆえに面白い」と鑓水さんは話してくれました。
「ほんと、なにかを逃すと1年後だから。覚えるまでに大変なんですよね。いつになったら習得できるのかって。でもその分、来年はこれやろう、もっとこうしようって目標もできるんです。天候によっても、毎年違うし。私も失敗だらけ。でも、村のベテランのおじちゃんおばちゃんだって満足いってないんですよね。常に厳しい。そういう、次はどうしたらいい?って考えるのも楽しいのでしょうね。
だから、なんというか、癖になるんですよね。できなかったことって、次はやってやろうという気持ちになるから。それが面白いのかもしれないです。
まだまだ満足はしていないけど、働きかたを変えてよかったとは思っています。
何が成功かはわからないけれど、自分で季節の流れができるようになっていくといいなぁと。」
見えてきた「まるけて」ができること
そんな鑓水さん、春から「里暮らしむすびや まるけて」として新しい一歩を歩み始めています。
「まるける」とは栄村の方言で「結ぶ」「縛る」という意味。稲を束ねるときなどによく使われています。
鑓水さんが栄村で初めて稲刈りをしたときに、「まるける」ことが全然できなかったそう。やっとのことで覚えられたときに
「これで一丁前だな」と言われたことが、とても印象に残っていて、今回屋号にも使うことになったと言います。
また、「まるけて」には他にも、こんな思いがこもっていました。
「人を結びたいって思いがあるから。結ぶってことばをそのまま屋号に使いました。ただ『結ぶ』で終わりにしたくなくて、その次が進んでいくといいなという思いを込めて『まるけて』にしたんです。」
「もう一つは、屋号を考えるなら村の方言がいいなって思いがあって。実際に使い始めると、村の人から喜んでもらえたので、やっぱりよかったなって思っています。」
では、一体「まるけて」はどんなことをするのでしょうか?
お話を聞いていくと、当初考えていた「まるけて」と、今考えている「まるけて」は少し変化してきているようでした。
「そもそもの『まるけて』のきっかけは都市部から人がきて、交流が増えればいいかなって気持ちでした。
でも最近、村の同世代の子たちと仲良くなって、気づいたことがあったんです。
私が村のおばちゃんたちから教えてもらいたいことって、村のみんなもやってみたいんだなって。
いま仲良くしているのは、よそからお嫁に来た方が多いですね。お嫁さんだと興味はあっても、義理のお母さんから教えてもらうって時間的にもちょっと難しかったりして。
あとは少し上の世代、40代後半の方は、興味はあるけど実はやったことがないって方が多いんです。まだ仕事もしてるから、なかなか習得できないけれど、実は好きな人もいるんですよね。
私が教えてもらっていると、そういう方たちが『やってみたい』って反応してくれるようになっていて。
そういうのを私が企画してやればいいんだって、最近は思っています。
それが『まるけて』の役割なんだなって思い始めたんです。
ちょっとずつ広げていけたらいいなって。」
みんなでやるから、文化は残っていく
「都市部との交流をしなきゃって思うのって、
村の活性化にも繋がるなって思うし
村の人も喜んで、自信にも繋がるからいいなって思うんですけど
文化を残していくときに、私一人が全てを習得しても意味ないなって気づいたんですよね。
この村のいいものを『いいよね』って思える人が近くにいないと、面白くないし、盛り上がっていかないなって思うようになったんです。
それは、移住してからずっとお世話になっている村のお母さんとの会話が大きかったですね。その方も『仲間がいないとダメだ。一緒にやる仲間がいたから、やってきたんだ』って言っていて。
村で一緒に暮らしていく友人たちと、どういう暮らしをしていくか、どういうことを残していくかとかを話しながら、この村の文化を覚えていけたらなって思ってます。
手間のかかる作業って、一人じゃできないですしね。
女子の強みって、話しながら作業できることでもあるじゃないですか。村のお母さんたちもきっと、そうやってやってきたんじゃないかなって思うんですよね。
もちろん都市部の興味のある方にもきてほしいし、村の中でもやっていきたい。両輪で進めていけたらいいなと思っています。」
鑓水さんが働きかたを見直したきっかけは、「日常的に村にいたいから」
それはとても個人的な感情です。
ですが、鑓水さん自身の「こういう暮らしがしたい」から始まる「まるけて」の活動は、今はまだ小さくても、確実にまわりの人々に波紋を広げていっているんだなと、じんわり、そして確かに感じるひとときでした。
村の古民家で子どもやお母さんたち、そして村の母ちゃんが集うのも、きっとここまで鑓水さんが「まるけて」きたもの。
「まるけて」続いていく先に、どんな景色が見えるのか、今から楽しみだなぁと思います。
お話を聞いた人
鑓水愛
1982年3月2日生まれ。神奈川県小田原市出身。2008年よりNPO法人信州アウトドアプロジェクト(現株式会社)でアウトドアイベントの企画運営、人材育成など、幅広く野外活動に関わる。2018年より、「里暮らしむすびや まるけて」としても活動をスタート。村の母ちゃんたちから、暮らしの知恵・文化を学ぶ日々を過ごしている。
栄村
長野県最北端に位置する人口1900人余りの村。村が運営する加工所では、村の母ちゃん達がグループをつくり、おひさまケチャップをはじめ、郷土食あんぼや、もち加工を行っている。東日本大震災復興交付金で建設された栄村直売所「かたくり」等で販売され、新鮮な野菜類と共に人気の商品となっている。
・鑓水さんも関わっている「おひさまケチャップ」、スノーデイズファームで販売中!
諸岡 江美子
スノーデイズファーム(株)webディレクター/保育アドバイザー。1987年、千葉県船橋市生まれ。東京都内の認可保育園にて5年間勤務、その後新潟県妙高市にある国際自然環境アウトドア専門学校、自然保育専攻に社会人入学。津南町地域おこし協力隊を経て、現在はClassic Labとして独立。雪国の「あるもの、生かす」という生き方を研究している。編集者、エッセイスト。
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