第5話 干し芋持って誰かのおうちへ〜教えてください!出稼ぎストーリー編
2019.02.15
半年は雪のなかの十日町。
この雪国のくらしのなかには、誰かのおうちに「お茶」しに行きあう文化があります。
「お土産」ということばが、「土から産まれる」と書くように、
土が産んだものが、ひとからひとへ渡り、雪の日に幸せを運びます。
小さな山の集落からお届けするこの干し芋が、「お茶のみ」の口実となり、そんなやさしい文化が続き、冬を越すひとたちの心をあたためますように。
改めて、私たちの「ほしいも」に向き合ってきた、この特集。
今回は干し芋もって、誰かのおうちへ。
お話を伺ったのは水落東一さん・みや子さん夫婦。
東一さんとみや子さんとは、4年前田んぼで出会いました。
小さな田んぼをお借りして、田植えからお米になるまで、手取り足とり教えてくれた田んぼの先生です。
それ以来、二人にはずっとお世話になっています。
そんな二人に出稼ぎについて、インタビューをしました。
お茶飲み風景をちょこっとのぞいているような気持ちで、読んでいただけたら嬉しいです。
二人の出稼ぎストーリー
水沼 私、今年の冬に、茨城で干し芋の加工をしてきたんです。出稼ぎを初めてしてみて、いろいろ大変だなぁと思うことがあって。そんなときに、以前東一さんが東京に出稼ぎをしに行っていた話をしてくれたことを思い出したんです。それで、改めてもう少し詳しく教えて欲しいなと思って、干し芋をもってお邪魔しちゃいました。今日はよろしくお願いします!
東一 夏は農業をして、冬になると雪が降って農業ができなくなるから、出稼ぎに行ったんだよね。出稼ぎ先、十日町市内だと寿司屋、機織りの会社など。東京では本屋で梱包の仕事。いろいろしたな〜。
出稼ぎに行ってみて、東京に出れば稼げるけど、暮らすとなるとこっちがいいって思ったよ。やっぱりこっちがいいってなったな。東京は働くにはいい場所かもしれないけど、暮らすには、育って来た場所一番だと思った。出稼ぎ中はいつも一緒にいる仲間に会えなかったりするし、住み慣れた場所が恋しくなったよ。
水沼 外に出てみて十日町の良さを実感したんですね。
私もこの冬に出稼ぎに行ってみて、十日町での暮らしがとても恋しくなりました。
住み慣れた家で食べるご飯、朝起きてカーテンをあけた時の景色、毎日のように顔を合わせる人…。
ふっとした瞬間にいつもの暮らしを思い出しました。
家を守るのは母ちゃん、だから越後女は強い
みや子 今は出稼ぎする人はあまりいないと思うけど、昔はいろんな人が行ってたね。だから、ある地域では男の人がこぞって出稼ぎに行くから、女の人の方が屋根の雪下ろしが上手って言われてたよ。
東一 日頃は母ちゃんが雪下ろしをしてくれるから、たまに父ちゃんがやると、散らかすばっかりだって言われてる(笑)
水沼 お二人はどうですか?
みや子 私は…登らねぇな。父ちゃん任せだった(笑)
一同 (笑)
水沼 十日町では、男性が出稼ぎに行き、外から家を支える。その裏では女性が家を守っていたんですね。
「女房にするなら越後女」という言葉があるように、厳しい冬を乗り越える新潟の女性はたくましく、芯が強い女性が多いと聞きます。屋根の雪下ろしの話を聞いて、私も冬を乗り越えて強くなっていきたいと思いました。
十日町で出稼ぎ?!山から出られなくなる冬
東一 東京だけじゃなくて、十日町市内にも出稼ぎに行ってたんだ。冬は家に帰れなくなるからね。
水沼 え、帰れない?!十日町市内で出稼ぎってどういうことですか?
みや子 冬の間は街に降りてたこともあるよね。住んでいるところまでまだ除雪が来てなかった頃で、自宅から勤務先までの行き来が容易じゃなかったのよ。家から出るときには、かんじき履いて雪の上を歩いて行かないといけないの。今じゃ信じられない話でしょ〜!(笑)
東一 だから十日町で出稼ぎするんだ。冬は機織の会社で機織りしてくれている人の家を回ったり、機織りの機械を修理したりしてたよ。十何年もやっていたから、機織りの機械の音でどの部分が壊れているか分かるようになったね。
みや子 冬の間は私たちのように街場に降りる人も結構いたの。会社の同僚が、冬に帰れないって言ってたのを聞いてびっくりしたけど、結婚して山地に住んでみてそれがよく分かったよ。本当に出られなくなったから(笑)
水沼 二人の暮らすところまで除雪が行き届くようになったのは昭和56年のことですよね。
それまでは雪の中に足が深く入るのを避けるために履き物の下につける「かんじき」を履いて、自分たちの行き来する道を雪踏みをしていたと聞きます。
山地の小さな集落から街場の隅々まで、除雪が行き届いていることが当たり前になった今。
当時の話を聞いて、冬も行き来できるのが当然だと思っていたので、とても除雪がありがたく感じました。
今年のふたりの冬
水沼 今年の冬はどう過ごしますか。
東一 今はバスの運転手をしてるよ。子どもたちの送迎バスの役割もあるし、地域の人が通院や買い物の時に使ったりしてるんだ。
みや子 お茶飲みかな。さっきも隣のお母さんが来てたんだよ。お茶飲みにたくあんを持ってきてくれる人が多いんだけど、家庭によって味が違うの。みんなで持ち寄ったものを食べながら、世間話をしたりするのは楽しいよ。
水沼 同じたくあんでも味が違うのは面白いですね!食べてみたいです!
東一さん、みや子さん、ありがとうございました。
それぞれの冬。
干し芋もって、誰かのおうちへ。
今日は、私たちも体験した「出稼ぎ」の話に触れて、家族や仲間たちと近くで働ける環境はとても幸せなものだと実感するお茶のみでした。
その一方で、外に働くことで、新しい世界を知ることができたり、技術を身につけることができることは、出稼ぎの良いところだと思います。
また、お二人の話にもあったように、出稼ぎは男性は外に稼ぎに行き家を支え、女性はその間しっかりと家を守るという家族の絆が育まれる時間であるように感じました。
さらに、その周りにいる同じような状況の女性たちが集まることで、冬の間に男性たちが留守であっても、協力して集落を守ることにも繋がっていた姿を想像することができました。
出稼ぎはいつもの場所から離れて新しいこと学ぶチャンスだと信じて、次の出稼ぎも頑張りたいと思います。
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水沼 真由美
1994年、神奈川県横浜市生まれ。法政大学現代福祉学部卒。2018年3月に新潟県十日町市に移住。スノーデイズファーム(株)で新社会人としてスタート。働きながら社会福祉士を目指して勉強中。
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