雪の日舎
今日の佐藤の、かんがえごと

SALASUSUを訪ねて、カンボジアへひとり旅【3】ー代表・青木健太さんに聞く。SALASUSUとはものづくりを通じた、ひとづくりの現場ー

2019.07.22

工房訪問の日がやってきました!

 

この日は、NPO法人SALASUSU代表の青木健太さんがホテルまでピックアップに来てくださいました。お忙しいなか、本当にありがとうございました!!!

同じタイミングで来訪していた大学生とともに、工房へ向かう。

到着すると、開放感ある素敵な工房が。
一通り案内していただき、青木さんからSALASUSUのお話を伺いました。

 

ライフスキルを身につける、女の子たちのジャーニー

コミュニティファクトリーという工房がカンボジアのシェムリアップにできたのは、2008年。貧困家庭出身の女性たちを雇用し、ハンドメイドクラフト雑貨の生産・販売事業を行なっています。

 

当時は、「子どもが売られない世界をつくる」ことをミッションに、人身売買問題を解決する活動を行う認定NPO法人かものはしプロジェクト(以下かものはしプロジェクト)のコミュニティファクトリー事業として、女性たちの所得向上を目的に、仕事を提供するのがはじまりでした。

 

あれから10年。
2018年4月より、かものはしプロジェクトより独立し、NPO法人SALASUSUとして再スタートしました。
SALAは「学校」、SUSUはカンボジア語で「がんばって」という意味。
カンボジア国内の児童売春問題がほぼ解決し、次のフェーズとして、女性たちの所得向上を目指すだけでなく、どのような取り組みとなっていったのでしょう。

 

青木さんより、SALASUSUの取り組みを伺いました。

青木 SALASUSUのコンセプトは、ものづくりを通じたひとづくり。
私たちは、『貧困家庭出身の女性たちの人生の旅を応援します』を団体のミッションにしています。

 

そのなかで、ライフスキル教育を提供しています。
彼女たちは基本的に工場には2年間しかいなくて、その後はいろんな民間の仕事へ送り出す。そういう農村と都市、工場のかけはしをやっています。

 

来てくれる子たちは、8割の時間は生産をして、2割はライフスキルトレーニングをやっています。長い時間をかけた職業訓練センターみたいだけど、訓練してるのは職業じゃなくてライフスキルですね。

 

カンボジアはどんどん開発が進んでいて、雇用が増えているのは第二次、第三次産業。農村的な価値観と、第二次産業、第三次産業で働かなきゃいけないギャップを橋わたししたいと思ってて。

 

都市と農村。価値観のギャップを埋めていく

青木 例えば、私たちが提供するライフスキルのひとつに『時間を守る』ということがあるけど、意外と難しい価値観で。村の時間感覚では、30分の遅刻はあまり問題にされない。だけど工場だったら完全に遅刻。社会のルールが違うんですね。

 

『それなら農村で暮らすわ』って言っても、産業構造からいうと、都市へ移っていくだろうと思ってて。そのとき直面する価値観のギャップを教えるのが私たちです。

 

だからここにきてくれている女の子たちは最貧困のところから選んでいます。応募してくれた方のところへ家庭訪問をし、収入や資産、支出全部チェックして、家庭環境もできる限り調べて、状況が厳しい人からお誘いしています。家があって土地があって、どうにかなるって人もいるけど、そうじゃない人もいっぱいいる。だから、誰と働くかにこだわりはとても持っています。

 

 

「知っている」と「できる」は違う。だから、体験できるトレーニングを。

青木 トレーニングでは、さっき言った『時間を守る』とか、『がんばる』みたいな技術は、さまざまな振る舞いから成り立っていて、それをつかみとってもらうことを目標としています。

 

これは知識ではないんですよね。「時間を守れる行動ができるかどうか」と「時間は守らねばならないという知識がある」はとてもギャップがあって。

 

実際にやれるかは別。なので、そこを伝えるアクティブラーニングを大事にしています。

 

トレーニングで生まれるアハ体験

私たちは、さまざまなライフスキルを6種類のカテゴリーに分けています。課題解決、自己管理、知識、自信、職業倫理、対人関係。

 

でもこれだけ見ていたら、社会人をやっていてもマネージャーをしていても、経営者であっても、ほとんど一緒のカテゴリー。結局人間としてやらなきゃいけないことは同じですよね。

 

それらの振る舞いを教えるにあたり、彼女たちが実際に体験できることを重視しています。

例えば「対人関係」で「友達のいいところを見つけて伝えましょう」というトレーニングがあります。

 

「伝えてください」って言ってもほとんどの人はできない。彼女たちの場合、「その人のいいところ」の抽象度が高く、難しいようです。

 

なので、私たちはトレーニングで、ビンゴをしているんです。まずはいいところを書いた9マスのビンゴを配って、「親切です」とか「友達との関係づくりが上手です」とか。そこに思い浮かぶ友達の名前を書く。で、ビンゴする。

 

ビンゴとかってやっぱり農村ですごく盛り上がるので、楽しくやってくれるんですが、ビンゴがついたら、みんなの前で発表してもらうんです。

「私はなんとかさんの名前を、なんとかに書きました」と。楽しくやれて、伝えてみたって経験をするのが大事で、言われた瞬間、伝えた瞬間に、「あっ」っていうのが女の子たちに生まれるんです。

アハ体験ですよね。そこまでやるのが大事です。そこまでやるとなにを具体的にやったらいいかがわかります。

 

一番人気なのがアンガーマネジメント。お母さんや同僚から指摘されると悲しくて怒っちゃうのは彼女たちも悩んでいて、結構人気なんです。

 

「6秒我慢しなさい、そうすればおさまります」っていうノウハウは大事だし、怒りは自分にとって栄養でもあり、怒りの裏側には思いとか願いがあるから、怒りになるわけで。その思いも「怒り」と伝えてみんなでワークをやっています。怒りを感じる自分を知ったり、自分の感情と付き合う。こんなトレーニングをいっぱいやっています。

 

スキルをはかるが、完璧でなくていい。その子に合った生き抜き方を

青木 これはこだわりなのですが、じつは成績という形でライフスキルをはかっています。みんな大事だよねっていうわりに、雰囲気で語られることがあるから。

 

成績はすごくシンプルで5段階評価。これは効果もあり、5ヶ月くらいのトレーニングで平均点がぐっとあがる。でもこの評価の表をみると、誤解をされがちですが、全部5点をとる必要はないと思ってるんです。

 

対人関係とか自己管理って、人によってどっちかが得意で得意でないというのがあって、どう生き抜くかの違いなんです。

 

人に頼るのがうまくて、関係をつくって生き抜く子もいれば、目の前のことをもくもくとやっていく子もいる。全部が完璧になる必要はまったくなくて、どこかが飛び抜けていれば生き抜けるので、そんな感覚でその人にあった職業やトレーニングをやっています。

 

資本主義をやわらかくしたい。そのために、買い方の変化を起こすエシカルブランドへ。

青木 いま55人の女の子が働いていて、2年で卒業というのもあって、定期的に入れ替わりをしていく形の工房です。

 

SALASUSUというブランドが、なぜ作った子のハンコをタグに押して、工房見学のチケットを同封して販売しているかというというと、「資本主義をやわらかくしたい」と思っているんです。

ぼくらが普段身につけている服やバッグって、誰が作ったかなんて分からないですよね。でもほぼ全ての商品は、裏に人間がいて、誰かが作っているのに、人の顔が見えないから、「同じ商品だったら1円でも安いほうがいいわ」ってなる。

 

それをやると、工場のマネジメントが「1円でも安いものを作れ」って方向になる。それは、彼女たちに限界まで働いてもらって、コストをかけず、生産性とコストだけを求めてくことで。

 

資本主義が悪いばかりでないけれど、そんなに誰かを犠牲にしなきゃいけない暮らしをしたかったんだっけ、という思いがあり。もし自分の持っているものの裏に誰かがいて、その人が笑顔で働いていると思えたら、もっとそれを大事にできるんじゃないかなって思ったんです。

工場のオーナーを責める気持ちもわかるけど、筋違いなところもあって、実はお客様の買い方が社会を決めていると感じています。

 

だから僕たちはそこにチャレンジしたいんです。

 

作り手をしあわせにし、成長させる消費が、自然体でできるように

青木 10回に1回でもいいから「このものづくりは作っている人もしあわせで、成長している、いい連鎖が起きてるんだ」という買い方をお客さんにしてほしいですね。

 

でも、ここは結構難しいところで、「だって労働者の人権侵害でしょう」と言っても普通の消費者にはそんなに響かない。だから、僕たちのアプローチとしては、もっとあたたかく、たのしく、自然とそういうブランドをチョイスできるようなポジティブなものの売り方をしていきたいです。

 

そう思ったときに、買った人にどれだけ作った人の顔を見えるようにするか。そのひとつのチャレンジがこのラベル。

 

現実的に、例えば日本のヒカリエでバッグ買おうってなったときに、バッグを作っている人たちに思いを馳せて買う人って超マイノリティなんです。そういう関心があるのは、そもそも社会問題に関心の高い人たち。でも僕はこのラベル気に入っていて。ハンコというのが、ちょうどいい塩梅でそういう余り興味のない人にも届くようなデザインと人間らしさを感じています。

 

今だんだんとエシカルブランドというのが当たり前になってきていて、今後15年経つともっと当たり前になっていくと思います。そんな世の中を作るためにも「エシカルなんて気にしたことなかった」って人が面白がってくれるチャレンジをしていきたいです。

 

そうすると、人の買い方が変わって、工場のマネジメントの仕方も変わっていくはず。人を笑顔にしたり、トレーニングしたりするほうがお客さんにうけるらしいぞってならなきゃいけないと思うんです。

 

ライフスキル教育が、どの子も平等に受けられるインフラになる日を目指して

青木 そうなると遠い話かもしれませんが、うちがやっているトレーニングを必要としてくれる人が世界中にもいるかもしれない。

 

うちがこの工場でやってきた、「ひとづくりと、ものづくりの教育」を外に広げていこうとしていて、うちのライフスキルトレーニングをカンボジアの政府とか行政とかNGOに売り始めていて。提供できる人は増えていくと思います。でも同時にそのトレーニングを必要とする人たちも作っていかなきゃいけない。

 

「うちの工場でもトレーニングしたいけど、誰もそんなコスト払ってくれないよ」っていう世の中だと、誰もライフスキルトレーニングを買ってくれないわけで、需要と供給どっちも作ってかなきゃいけない、という意味で、うちではブランドのチャレンジと、教育のチャレンジをしています。

女の子の成長と、ものづくりを一緒にやるのはやっぱり大変で、その仕組み自体をいろんなところに真似してもらうのは大変です。それでも、そのどちらも両立するために行うのが教育です。これまでよい教育に取り組んできたから良い商品が作れて、商品を買ってくれる人を増やせる。そして、商品を買うお客さんが増えれば雇用できる人数も増やせるし、そういう意味で、世の中を変えていけるのかなと思っています。

最終的にそれがうまくいって、僕たちのやっている社会の中で活躍するためのライフスキル教育がインフラみたいになったらいいなと。どんな家庭に生まれても、どんな国に生まれても、小学校途中でやめても、ライフスキルトレーニングが安価に受けられる世の中へ。

 

ライフスキルトレーニングは頑張る技術だから、みんなに平等に与えられるべきだと思っています。いろんな国でいろんなチャレンジをしていて、ライフスキルを伸ばすことができたらいいな、というのがうちのビジョンですね。

 


 

次は、青木さん自身のライフジャーニーを伺います!

 

 

 

SALASUSU

カンボジア発のライフスタイルブランド
SALASUSU(サラスースー)。
日々の暮らしも、特別な旅路にもよりそう、シンプル&クリーンなラインナップ。
農村にある小さな工房で、近隣の女性たちによって、丁寧に仕立てられています。

佐藤 可奈子

佐藤 可奈子

株式会社雪の日舎 代表。1987年、香川県高松市生まれ。立教大学法学部政治学科卒。大学卒業後、新潟県十日町市に移住、就農。「里山農業からこころ動く世界を」がテーマ。著書「きぼうしゅうらく〜 移住女子と里山ぐらし」