第3話 「ありのままを受け入れ、前に進む」農家・佐藤可奈子編〜はぐくみストーリー〜
2017.09.29
さて、2回にわたって雪の日舎の思いをお伝えしてきました。
次に、雪の日舎のメンバーたちが今にいたるまでにはぐくんできた各々のストーリーを、ご紹介します。
まず初回は代表である佐藤可奈子です。
はじめまして。佐藤可奈子です。
雪の日舎代表の佐藤可奈子です。
特集第二話でも少し触れさせていただきましたが、私は香川県で生まれ育ち、大学で上京し卒業後、新潟県十日町市の山あいの集落、当時6軒13人だった池谷に移住し2017年で7年目となりました。
もちろん非農家出身、ゼロからの就農。農学部でもなく、移住当時は大学を卒業したばかりの役立たず・世間知らずの23歳でした。そんな私を地域の師匠たちは見放さず、信じてくれ、育ててくださり、今の私があります。少しでも地域にその感謝の気持ちをお返ししていきたいと、今も農業を続けています。
集落との出逢いから、雪の日舎ができるまでを特集第二話では書かせていただきましたが、ここでは、そんな私の移住までの紆余曲折をお話ししたいと思います。
どうやったら戦争はなくなるのか?9.11テロや緒方貞子さんとの出逢い
実は大学では、法学部政治学科でアフリカの紛争解決や難民支援を専門に勉強していました。きっかけは2つあります。1つは、中学生の頃に9.11アメリカ同時多発テロ事件があり、世の中はどこか不安定でテレビから流れてくる情報が怖くて、漠然とどうしたら世界から戦争や紛争がなくなるのだろう、どうやったら平和な世界を作れるのだろうと考える夢子ちゃんでした。2つ目は、中学校の英語の授業で緒方貞子さん(前・国連難民高等弁務官)についての英文を読んだときでした。世界の平和のために活躍する日本人女性がいることに大変勇気づけられ、感動したのを今でも覚えています。
世界の課題に関わりたい。
それはゆとり特有の平和ボケな考えかもしれませんが、海外で働き、誰かの役に立ちたい思いを抱いて東京の大学に進学しました。そして大学の夏休みを利用しては、ケニアやルワンダに足を運んで学び続けていました。
世界と、そして日本で課題に向き合うNGO JENとの出逢い
しかし、体験したり勉強したりすればするほど、絆創膏的に現地で活動するよりも、おおもとの原因解決に携われないかと思うようになりました。そんなことを悩んでいるなか、国際NGO JENと出逢いました。
UNHCRユースという難民支援を学び実施する学生団体に所属し、事務局をしていた関係で、海外の難民支援に携わるJEN代表の木山啓子さんや職員の方と知り合い、ニュースレターをいただいていました。
そのなかに入っていた中越地震の復興ボランティアのかわいいチラシ。
当時JENは池谷集落で震災復興の活動をしていました。海外で活躍するNGOが日本のかたすみの小さな集落でも活動をしている。それがとても不思議でした。その答えを知りたくて、夏に農作業ボランティアに参加しました。大学3年生のときです。それ以降の流れは特集第二話の通りです。
自分を好きになれない、体型のコンプレックス
実は特集第二話で書かなかった、私の価値観の変化があります。
それは、自分への向き合い方でした。私は小さいころからスポーツもよくし、よく食べ、太りやすい方だったので、女の子にしては割とガタイのいいほうです。それがずっとコンプレックスで、女の子らしい華奢な体に憧れていました。
中学校からいろんなダイエットもしました。白米を抜いたり、キャベツだけ食べたり、痩せるサプリメントを飲んだり…。全ての情報を信じ、なにが正しいのか分かりません。家族やまわりからも「痩せたらかわいいのに」「また太ったなぁ」の声。好きな人からは「痩せたら付き合う」と言われ、「今」の私は誰からも受け入れられていないのだという気持ちになり、もっと痩せなきゃと気持ちが追い詰められました。
食べることに罪悪感があり、過食と拒食を繰り返しイライラは募り、進学校で勉強にもついていけず、部活にもいっぱいいっぱい。急に頑張れなくなって、高校を何ヶ月間か(ぐれて?)行かなくなりました。そんな心を埋めるように、東京のブランド服や、高級ブランド品に身を固めて、嫌いな自分を守っていました。
自分がここに存在する意味を求めて、自分以上に苦しんでいる人のいる海外で、誰かの役に立ちたかったのかもしれません。
今のままでいい。今のままを受け入れられると、前に進める
そんな中、池谷集落に来るとごはんが本当においしくて、いつも食べ過ぎてしまいました。
「あぁ、また東京戻ったらダイエットしなきゃ」とつぶやいたとき、村の人が「なんでダイエットするの?いまのままでもいいのに」と言いました。そのときは「そうは言っても…」と言ったものの、何度も通うなかで、本当に採れたての作物は心の底から沸き起こるくらいの大地の力を感じて、そんな力を私はお裾分けしてもらい、自分のエネルギーにしているんだと気付きました。
「そうだった、私が食べたくないと思っていたときも、日本の隅っこの山奥で、こんな私の食を支えてくれている人達がいたんだ」。
そして、「丸々してかわいらしいから可奈子なんだ」「太い指?いっぱい働いてる手じゃないか」「美味しそうに食べている姿がいちばんかわいい」と言われ刷り込まれてくると、不思議なもので今の自分を好きになってきました。
激しい四季の変化のなかで、饒舌に変化してゆく食卓が楽しく、食べることも好きになり、土に向かうことで、私たちと同じように夏の灼熱の太陽を浴び、風に吹かれ、雨に打たれ大きくなってゆく作物も愛おしく思えるようになりました。
なにもないから、大切なものがよく見える
「ここはなあんもないから、大切なものがよくみえる。どんなに着飾ってても、その人となりも、よく見えるもんなんだ」と、地域の方が教えてくれました。
本当にその通りだと思います。
だからこそ、私自身も本当の私を受け入れることができ、そして作物に向き合うことができたのかもしれません。
雪の日舎では、はぐくみに携わるママを中心にサポートしていきますが、ゆくゆくはママになる前の女の子たちを、食で支えていきたいです。
私と同じように、自分の体型や見た目で悩んだり、自分を追い詰めている子たちはたくさんいると思います。しあわせに、自分自身や、こどもや、だれかをはぐくめる女の子が増えるよう、私たちも努めたいです。

佐藤 可奈子
株式会社雪の日舎 代表。1987年、香川県高松市生まれ。立教大学法学部政治学科卒。大学卒業後、新潟県十日町市に移住、就農。「里山農業からこころ動く世界を」がテーマ。著書「きぼうしゅうらく〜 移住女子と里山ぐらし」
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