第9話 田んぼでファミサポできますか?農ある暮らしのそばで子育てしたい〜佐藤佑美さん/新潟県長岡市
2019.10.04
第9話では、長岡市出身、Uターンし農家の旦那さんと結婚した佐藤佑美さんにお話を聞きました。
農家だからこその子育てのしやすさ
長岡市の中心地に近い、大きな道路を少し外れたところに、佐藤さんのご自宅と事務所はありました。
「こちらで、少しお待ちいただけますか?」
そう言って茶の間に案内してくれたのは、佐藤さんのご主人と息子さん。
今日はたまたま息子さんに熱があり、たった今保育園に迎えに行ってきたところだと教えてくれました。
熱があるといっても、元気なのが子ども。
あちこち走り回る息子さんを追いかけ、見守っているご主人の姿を見ながら、仕事の電話に対応する佑美さんを待ちました。
「すみません、お待たせしました」
佑美さんの電話が終わり、私たちが話を始めると、ご主人と息子さんはどこかへ……
「農業をやっていて、子育てしやすいなと感じるのは、今日みたいに仕事の融通が利くことですね。保育園で熱が出ても、すぐに迎えに行けますし、私が行けないときは夫やお義母さんが、迎えに行ってくれたり、子どもを見ていてくれます。」
きっかけは、農業を通じたコミュニティ
そんな佑美さん、生まれも育ちも長岡。
若い頃は東京でOLをしたいと思っていたと言います。
長岡に帰ってくるきっかけは、中越地震後の地域活性インターンに参加したことでした。
「そこで初めて農業の手伝いをしたんですよ。手刈りやはさかけ、草刈りも。でも、手伝いって言っても、一学生ができることなんて、ほとんどなかったんです。
でも、そのときにみんなでご飯を食べたり、休憩中にいろんな話をしたり、農業を通じて共有した時間がとても楽しかったんです。
その後は、そのインターンで知り合った農家さんのところに手伝いに行ったりもして、農業という世界は興味がありました。」
農業との出会いを楽しそうに語ってくれた佑美さん。同時に、現在の専業農家としての暮らしとの違いについても、こう話してくれました。
「嫁に来てからは、がっつり専業農家になりました。
夫と結婚すると決まったときに、農業はしようとは思っていたのですが、専業となると経営のことも考えなければいけないですし、インターンの頃の農業とはまた全然違うんだなと思いました。」
田んぼの横で、ファミサポって頼める?
農業のやり方の違いとともに、周辺の環境によっても子育てのしやすさは変わります。
佑美さんの家の近くの田んぼは、大きい道路や用水路に囲まれていて、子どもを連れて仕事をするということは難しいとのこと。
「連れていくのがちょっと怖いんです。
山の田んぼだと安心して連れて行って仕事ができるんですけどね。
駆け回れる環境があったり、葉っぱや枝、そこらへんにある自然のもので遊んでいられますし、車通りも少ない上に除草剤も使われていないところが多いんです」
そんな葛藤を抱えている佑美さんからは、こんな提案も……
「ファミサポ(*1)って、田んぼの横とかで見ていてくれないんですかね?
がっつり預けるまでもないんですけど、誰か大人が一人見ていてくれると、私たちも安心して仕事に専念できるなぁと思って。
それに保育園って日曜祝日休みじゃないですか。
農家は日曜祝日が関係ないので。」
仕事のかたわらで、子育てもしたい。
農ある暮らしのそばで、子育てしたい。
それは、農業の持つはぐくむ力、コミュニティの良さをわかっている農家ならではの思いではないでしょうか。きっと佑美さんだけでなく、農業に携わっている女性のなかには、同じような思いを持っている方が一定数いるような気がします。
しかし、多様な働き方や多様な選択肢が増えたなか、いまある保育サービスの中ではフォローしきれていない部分がある、そして会社員や専業主婦以外のありかたは、理解されづらいという課題も浮き彫りになりました。
くらし、こそだて、しごとのバランスどうとっている?
「農業」「家族経営」という働きかただからこそ、家族の中では子育てを柔軟にできる。
その一方では、同世代の子育て女性との交流はあるのでしょうか?
「近所にも子どもがいる家庭があったり、夫のつながりで先輩ママさんたちとの交流があり、その点ではとても助けられています。
夫の世代では結婚が一番遅かったので、先輩たちが気にかけて声をかけてくれて」
嫁いだ家の周辺でも、ご主人をきっかけに先輩ママさんたちとも自然と打ち解けてきている佑美さん。
同時に研修などにも出向き、外の人との交流も積極的に行っているとのこと。
このような自ら外に出ていくという佑美さん自身のスタンスも、くらし、こそだて、しごとを俯瞰して見られる余白になっているのではないかと思いました。
「大事なもののために、当たり前のことを、当たり前に行う」
最後に農業と子育ての両立のコツがあるか聞いてみたところ、
「やらなきゃいけないことを、優先的に一つひとつ片付けていくことですかね。
平日は、保育園にお迎えに行く5分前くらいまで仕事をしていますが、それも子どものため。
日曜日は子どもと遊べるように、やることを片付けていこうと思っています。」
佑美さんの答えからは、ある意味「コツ」というまでもなく、「当たり前のことを当たり前に行う」ということが出てきました。
しかし、実はこれがすぐにできそうで、なかなかできないことなのかもしれません。
どうしたらしごと、こそだて、くらしを自分なりにブレンドしていくか。それは、大事なものがはっきりとしていればいるほど、シンプルなことなのかもしれません。
佑美さん、ありがとうございました。
お話を聞いた人
佐藤佑美さん
長岡市出身。中越地震をきっかけに地域活性化インターンに参加するなかで、地元や農村に関心を持つようになり、Uターン。現在は専業農家の夫と結婚し、二人のお子さんを育てながら、農業を営む。
■佐藤さんをはじめ、県内のママ農家20~80代のみなさまにどんな子育て農業をしてきたか、どんな「くらし・しごと・こそだて」のブレンドをしてきたか、聞き取りやアンケート調査を実施し、白書にまとめました!
農あるくらしと、こそだて白書(ゆきのひノート特別編)「くらし・しごと・こそだてをどうブレンドして、私らしいしあわせ作れる?」
諸岡 江美子
スノーデイズファーム(株)webディレクター/保育アドバイザー。1987年、千葉県船橋市生まれ。東京都内の認可保育園にて5年間勤務、その後新潟県妙高市にある国際自然環境アウトドア専門学校、自然保育専攻に社会人入学。津南町地域おこし協力隊を経て、現在はClassic Labとして独立。雪国の「あるもの、生かす」という生き方を研究している。編集者、エッセイスト。
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