雪の日舎
くらす、働く、子育てする、里山の女性たち

第3話 母のあり方に人が集まる「農業も子育ても、おおらかに」福嶋恭子さん/新潟県十日町市

2019.06.14

世代を超えて見えてきた、視点

「どうしたら、子育てしながら自分らしく働き続けることができるのだろうか」

そんな私たちの悩みからスタートしたこの特集。

 

第1話では雪の日舎の女性メンバーの座談会をお届けしました。その中でも、佐藤が小さな子どもを育てながら農業を続けていくにあたり、さまざまな壁や悩みにぶち当たったこと、いまもあり方を模索しながら働いていることをお話しました。

第2話からは、農業に携わる女性たちがどんな思いで、どんな工夫を凝らしながら、この雪国で農と子育てを両立してきたのか。

それぞれの年代別に聞いてみました。

 

今回お話を聞いたのは、「農業」に携わる女性でしたが、皆さんが共通してお話してくださったことからは、直接「農業」に関わっていなくても、どんなお母さんの心にも響く大事な視点だったなと感じています。

 

 

まずはすでに子育てもひと段落した、先輩お母さん世代に当時の女性の働き方と子育てのサポートについてお聞きしてきました。

第2話 「季節保育園ってなに?」農家の暮らしに合わせたサポート〜水落静子さん/新潟県十日町市

 

2番目にお話を聞いたのは十日町市で農家レストラン「越後妻有のごちそう屋ごったく」を経営する福嶋恭子さん。

 

 

 

国道沿いに並ぶ福嶋さんのお店に伺ったのは、ランチ営業が終わる14時過ぎ。

まだ店内に残っていたお客様と、楽しそうに話す福嶋さんの姿がありました。

 

 

この日のランチはとても混んでいたようで、最後に食べていた若い男性グループは一度出直して遅めの時間にやってきたようでした。

 

 

その男性たちは、市外の方で大地の芸術祭を見にきたお客様のようでしたが、ごったくには何度か足を運んでいるそう。

今回も、「ごったくで食べたい」と時間をずらしてくるほどでした。

 

帰り際、元気よく「ごちそうさまでした!」とお礼を言ってお店を後にする男性たちを笑顔で送り出す福嶋さんを見て、彼らは食事はもちろんのこと、暖かくおおらかに迎えてくれる福嶋さん自身のファンなのだろうなと感じるひとときでした。

 

▲「妻有ポークの肉まみれ丼」はボリューム満点で大人気のメニュー

 

 

子どもに原体験を。当たり前にあったものの大切さ

福嶋さんは、結婚してからは嫁ぎ先の兼業農家を手伝いながら子育てをし、子どもが成人するのを契機にごったくを始めました。

取材に行った日は近くに住む娘さんも、お店の手伝いにきていました。

実は娘さん、お店だけでなく、今は農業もやっているそうです。

 

「娘が農業をやるなんてびっくりですね。うちはどこに行ってもいいよ、好きなことをして、と言ってきたので。3人子どもはみんな一回地元を出たけれど、近くに帰ってきましたね。逆に賑やかすぎるくらいです。」

 

そう話す福嶋さんは、やはりうれしそうです。

 

「いま振り返ると、農業をしていてよかったと思うのは、子どもが親を尊敬するようになることかな。

 

例えばサラリーマンだったら、一生懸命会社で頑張ってきても、働いているところって見れないんですよね。

でも農業をやっていれば、トラクターに乗っているところが見れるし、作ったものが食卓に上がってくる。そういうことってシンプルに『すごーい』って感じられる。小さいときの『すごーい』って感覚って大きいと思うんですよ。

 

娘が農業を始めるって言ったのも、もちろん親の姿を見てきて尊敬しているとか、手伝わなきゃとかって思いもあったと思うんですけど、単純に美味しいものに対して敏感なんですよ。採りたての野菜とか、お米が美味しいのがわかっているので、私たちができなくなるとそれが食べられなくなるっていう危機感もあったんだと思います。」

 

 

そんな福嶋さんの娘さん、実家から離れて初めて大根をお店で買って調理したときに愕然としたと言います。

そのまま煮物にしたら、苦くて食べられなかったそう。

そこで友人から、大根はアク抜きしないと食べられないということを聞いたのです。

「大根って買うと、こんななんだ」と衝撃を受けたと話してくれました。

 

そういった無意識のうちに育まれている原体験があるからこそ、外に出ても地元の素晴らしさについて再確認する機会がたくさんあったのだろうと思います。

 

現在は「コリンキー」という生食用かぼちゃの栽培にも挑戦しているとのこと。

「どっかから、そういう話を見つけてきては、お父さんに手伝ってもらってやってますよ。」

 

 

 

「子育ては楽しかった」

福嶋さんは地元同士での結婚ではありましたが、義母がいなかったため子育てと農業の両立には苦労したと話してくれました。

子どもが小さいときは、おんぶしながら草取り。

寝ている隙を見計らって、田んぼに行き、

泣き声が聞こえればまた戻って……の繰り返し。

 

それでも、子育て期を振り返って「楽しかった」と話します。

 

「子どもが帰るときに家にいることができたし、時間の都合もつきましたから。いま考えると大変だったんだろうなって思うんですけど、あんまり悩みはなかったかな。目の前にあることが大変なことかどうかなんて考えたことなかったから。」

 

また、子どもが3人いたので、きょうだい同士で遊んでくれたり、畑の近くのお宅に上がり込んでいたこともあるそうです。

 

 

 

農業も子育ても、おおらかに。

 

「それに、あっけらかんとしていないと農業なんてできないと思うんですよ。基本おおらかな性格の人しかいないような気がします。

だから子育てだって、風邪引いたらとりあえず薬飲ませて寝かせておく。そのときそのときで対応していくしかないって感じだったな。

多分いまみたいにスマホがなかったから、心配のタネもなかったんだと思います。医者の言うこと、年寄りの言うことを信じるしかない。手遅れになることもあるかもしれないけど、大抵大丈夫。

今はスマホですぐに調べられるけど、変な情報も入ってくるじゃない。今は過剰に不安にさせられているのかもしれないね。」

 

 

いま多くのお母さんたちが、子育てのなかで悩んだとき、すぐに手にするものの一つがスマホです。

 

スマホの中には、本当にたくさんの情報が行き交っていて、私たちはどの情報を信じたらいいかわからないのが現実です。

情報がたくさんある分、答えはたくさんあるのかもしれませんが、「私は何を選ぶ?」という選択は難しくなっているのかもしれません。

 

そんな時代だからこそ、福嶋さんのように「おおらかにいる」ということが、お母さん自身にとっても、子どもにとっても生きやすいのではないかと感じます。

 

 

いまとむかし。変わっていくもの。

 

同時に、昔のようにはいかない部分もあることも、福嶋さんのお話から感じました。

「遊ぶ場所だって昔圃場整備されていなかった頃は、大きな用水路もなかったから、その辺で遊んでいても危なくなかったんですよね。ほったらかしだったけど、怪我なんてしなかった。」

 

いまは圃場整備がされて、農業としてはやりやすくなりましたが、子どもが育つ環境としてはどうなのでしょうか。

 

大規模化や機械化によって、子どもにとっては危険なものも増え、山自体も整備がされなくなって、ほったらかしで遊んでいいよとは簡単には言えない時代になったのかもしれません。

 

時代の変化は私たちの生活を豊かにしてくれたものであると同時に、子どもたちが遊ぶ環境としては難しくなってきているのだと感じます。

 

そのなかで、どんなふうにこれからの子どもたちに、福嶋さんの娘さんのような原体験をさせてあげられるのか、少し工夫が必要なのかもしれません。

 

「子どもの感性を里山のものではぐくみたい」

日々そう思っている私たちにとっても、子どもたちが育つフィールドとしての農業をどう紡いでいくのかも大きな課題なのだなと改めて感じました。

 

なんだか暗い話になってしまいましたが、

「それでもいまは横のつながりがたくさんあるじゃない。昔はなかったよ。」

 

と福嶋さん。

 

 

いまは昔に比べて、多様な子育てグループもあれば、農業女子のつながりもある。

そう考えると、先ほどの課題についても糸口が見つかりそうな気がします。

 

 

こんなふうに、おおらかで、柔軟な福嶋さんに元気をもらいに、ごったくへ通う人たちがたくさんいるんだろうなと、お店に来たときに見かけたお客さんの姿がまた目に浮かびました。

 

 

福嶋さん、ありがとうございました。

 

 

お話を聞いた人

福嶋恭子さん

十日町市出身。兼業農家をしながら、越後妻有のごちそう屋ごったくを経営する。お店では、自家栽培の魚沼産コシヒカリや野菜を使用。食べ応えのあるメニューは市内外のお客様から愛されている。また、3人の子どもたちは地元にUターンし、孫にも囲まれて賑やかに過ごす。

 

■福嶋さんをはじめ、県内のママ農家20~80代のみなさまにどんな子育て農業をしてきたか、どんな「くらし・しごと・こそだて」のブレンドをしてきたか、聞き取りやアンケート調査を実施し、白書にまとめました!

農あるくらしと、こそだて白書(ゆきのひノート特別編)「くらし・しごと・こそだてをどうブレンドして、私らしいしあわせ作れる?」

諸岡 江美子

諸岡 江美子

スノーデイズファーム(株)webディレクター/保育アドバイザー。1987年、千葉県船橋市生まれ。東京都内の認可保育園にて5年間勤務、その後新潟県妙高市にある国際自然環境アウトドア専門学校、自然保育専攻に社会人入学。津南町地域おこし協力隊を経て、現在はClassic Labとして独立。雪国の「あるもの、生かす」という生き方を研究している。編集者、エッセイスト。

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