雪の日舎
くらす、働く、子育てする、里山の女性たち

第6話 夫婦で移住。公共サービスをフル活用することへの期待と葛藤〜宮崎綾子さん/新潟県津南町

2019.09.16

世代を超えて見えてきた、視点

「どうしたら、子育てしながら自分らしく働き続けることができるのだろうか」

そんな私たちの悩みからスタートしたこの特集。

 

第1話では雪の日舎の女性メンバーの座談会をお届けしました。その中でも、佐藤が小さな子どもを育てながら農業を続けていくにあたり、さまざまな壁や悩みにぶち当たったこと、いまもあり方を模索しながら働いていることをお話しました。

第2話からは、農業に携わる女性たちがどんな思いで、どんな工夫を凝らしながら、この雪国で農と子育てを両立してきたのか。

それぞれの年代別に聞いてみました。

 

今回お話を聞いたのは、「農業」に携わる女性でしたが、皆さんが共通してお話してくださったことからは、直接「農業」に関わっていなくても、どんなお母さんの心にも響く大事な視点だったなと感じています。

 

 

まずはすでに子育てもひと段落した、先輩お母さん世代に当時の女性の働き方と子育てのサポートについてお聞きしてきました。

 

第2話 「季節保育園ってなに?」農家の暮らしに合わせたサポート〜水落静子さん/新潟県十日町市

第3話 母のあり方に人が集まる「農業も子育ても、おおらかに」福嶋恭子さん/新潟県十日町市

第4話 働きたい思いを叶えてくれた地域。だからママ農家の「ほしい」ものを代弁してゆく〜笠原尚美さん/新潟県阿賀野市

第5話 母として、仕事人として、まっすぐな想いが人の心を動かす〜農プロデュースリッツ 新谷梨恵子さん/新潟県小千谷市

 

続く第6話からは、現役子育て世代のお母さんたちに、今日までの葛藤や工夫を含めたリアルな心境をお聞きしてきました。

 

まずはじめにお話を聞いたのは、新潟県津南町に夫婦で新規就農し「はらんなか」という屋号で、子どもも安心して食べられる無農薬栽培を中心とした農業を営む、宮崎綾子さんです。

 

夫婦で移住。頼れるのは保育園だけ

 

宮崎さんは津南町に移住してから3人のお子さんに恵まれます。

しかし、夫婦ふたりとも町外出身者。他に頼れる家族や親戚は近くにはいなかったのです。

 

保育園に頼りっぱなしでした。人見知りが始まる前に保育園にもう入れて。ここら辺は、おじいちゃんおばあちゃんと同居しているかたが多いので、延長保育を利用するご家庭も限られていました。だから、うちの子はいつも一人でポツンと残って、一番最後のお迎えとかよくありましたね。当時は、よく泣かれました。

 

保育園の先生からも『もう少し時間作ってあげて』と言われたこともあります。それができなくて、色々悩んだり、自分を責めたり、八つ当たりもして、旦那とも喧嘩になりましたね。

 

子育てしながらだと農作業は中途半端になっちゃうし、子どもに悪いなと思いながらも預けないわけにはいかないし、精神的に不安定になったこともありましたね。ちょっとノイローゼじゃないけど、自分を責めちゃうときもありましたね。

 

でも、それってないものねだりでね。おじいちゃんおばあちゃんがいたらいたで、子育てに関して意見が合わなかったりとか、我慢したりとか、結構大変という話も聞くから、どっちも大変なんですよね。うちは旦那にオムツも替えてもらったり、子どもの世話をしてもらったり、家事も分担して、その代わり私も農業していましたし。」

 

学童に行く?行かない?

子どもたちが未就学のときは、保育園に大いに助けられたという宮崎さん。

では、小学校に入ってからはどうだったのでしょうか?

 

「上の子ふたりは、学童を利用していましたね。長女のときは、学童に行っているのはうちの子だけでしたね。

 

小学校1年生って難しくて。こないだまで保育園に行っていた子が14時とかに帰ってきちゃうんですよ。16時ならまだしも14時って。もっと厳しい状況になっちゃうので。

 

でも実は、一番下の子は行きたくないって言って学童には行ってないんです。まぁ、お兄ちゃんもいますし。きょうだいがいれば、子どもだけでも過ごせるようになるんですよね。

 

夏休みは山から降りて、町中にある学童まで通っていました。夏休みはお弁当を持たせないといけないので、さすがにお弁当を持ってまで通わせる家庭はほとんどいなかったですね。同じ地域からは、うちともう一人くらいだったかな。

 

今思うと、下の子は行きたくないって言いますけど、上の子は我慢していたかもしれないな。行くのが当たり前と思っていましたから。忙しいから我慢しなきゃと、親を見て思うんでしょうね。私たちも子どもに悪いなと思いながら、選択の余地はないという感じでしたね。学童がなくては私たちには農業と子育ての両立は考えられなかったんです」

 

保育園にしても、学童にしても、町の子育て支援制度をフル活用して、子育てと農業を両立してきた宮崎さん。

お子さんに対しては、申し訳ない気持ちがあったり、これでよかったのかと思うこともあるとお話ししてくださいました。

その一方で、がむしゃらに自分たちの信念を貫き農業と向き合ってきたからこそ、出会えた子どもたちの姿もあるようです。

 

「農業」という親の仕事が子どもに育むもの

「この前子どもが市販のものを食べていて、『甘くて食べられない』と言っていたんですよ。その姿を見て、ちゃんと舌は育っているんだな〜と思いました。やっぱり、美味しいものを食べているから、舌が敏感なんですよね。

ただ、それだけしか食べられないというのも、大変だなとは思います。

一番上の子は3歳くらいまで市販のお菓子もあげなかったんですよ。でも大きくなってきて、お友達の家でおやつを頂いたりして、緩んできますよね。

 

ある日、保育園で年長さんだけの特別メニューとしてクリームソーダが出たんです。娘はアイスクリームも炭酸も生まれて初めてだったので、目をパチクリさせてたと先生から聞きました。

 

私、子どもを保育園に未満児で預けたときにいきなり赤ちゃんせんべいが出されたのが受け入れられなくて。おやつも持参していたときもあります。離乳食もお弁当持って行ったりもしました。

 

誤解のないように言うと、保育園では手作りのおやつも出してもらっていました。ふかし芋とか。ただ、毎日そうではなかったので、当時はそこまで気になってしまったんですね。

 

大きくなれば、いずれはと思いながらも、最初のうちくらいはこだわりたいと思ってやっていたんだと思います。

 

でも今考えると、あんまり極端なのもかえって生きづらくなるなぁと思いますよね。

 

結局は、いずれ子ども自身が選択していければいいと思います。

子どもは親のものではないですから。

 

正しいものだけが全てではない。これもあって、あれもあり。今って生き方も多様化してきているじゃないですか。いろいろ選択できますからね。

 

 

それでも、うちで作ったものを『美味しい』って子どもが食べてくれるときが一番うれしいですね」

 

大変なこともあるけれど、「農業」という働き方が好き

 

今までお母さんとしてのお話を宮崎さんにお聞きしてきましたが、実は宮崎さん自身も農家の家で育った子どもでした。

 

「自分が親の農業を見てきた感覚で言うと、親が働く姿を間近で見れたことはとてもよかったと思っています。こうやって私たちを食べさせてくれているんだなということがよく見えていたなって。

 

そして、自分が農業を始めて、子どもを育てていて思うのは、農業って子どもは子どもの仕事があるし、お年寄りはお年寄りの仕事があるし、働き盛りの人は力仕事があるし、みんなでできるってことかなと思います。だから子育て中にはそれなりの仕事ができるし、妊婦のときだってそう。

 

 

こうやって人に会うのもそうですけど、どこかへ出かけるのも自分で決められますからね。ただ境界が曖昧なので、プライペートと仕事のその線引きが難しい。どこまでが仕事でどこからが生活なのか。それがいいことでもあるんですけど。自由だけど、自己責任。

私はそういうの、嫌いではないです。

自分の自由になる時間がむしろあると思います」

 

自分たちで選んでここに来た移住夫婦。

そんな方なら、みなが「うん、うん」とうなづいてしまうような悩みや葛藤が、宮崎さんのお話の中から見えてきました。

 

子育てに「完璧」なんて言葉は、きっとないでしょう。

大切なのは、「保育サービスをフル活用する=子どもがかわいそう」というある種の固定概念を抱いてしまう、周りの大人の意識を変えることなのかもしれません。

だって、親が自分で選んだ仕事に打ち込む背中は、子どもたちにとって「親」という存在を普段とは違った目線で見ることができる、最高の景色になるのだろうと、宮崎さんのお話から感じるからです。

 

 

 

お話を聞いた人

宮崎綾子さん

1969年生まれ。新潟県長岡市出身。新規就農者の夫(東京出身)との結婚を機に農業にかかわる。3人を育てながら、無農薬で雪下人参やさといらず、さつまいもを中心に栽培。雪下にんじんジュースやさといらずの炒り豆、打ち豆など、販売。さといらずの豆腐は自身で加工。6次産業化にも取り組む。冬は焼き芋屋さんになり、町内やイベントに出店している。

 

 

■宮崎さんをはじめ、県内のママ農家20~80代のみなさまにどんな子育て農業をしてきたか、どんな「くらし・しごと・こそだて」のブレンドをしてきたか、聞き取りやアンケート調査を実施し、白書にまとめました!

農あるくらしと、こそだて白書(ゆきのひノート特別編)「くらし・しごと・こそだてをどうブレンドして、私らしいしあわせ作れる?」

 

 

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諸岡 江美子

諸岡 江美子

スノーデイズファーム(株)webディレクター/保育アドバイザー。1987年、千葉県船橋市生まれ。東京都内の認可保育園にて5年間勤務、その後新潟県妙高市にある国際自然環境アウトドア専門学校、自然保育専攻に社会人入学。津南町地域おこし協力隊を経て、現在はClassic Labとして独立。雪国の「あるもの、生かす」という生き方を研究している。編集者、エッセイスト。

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